イレッサよくある質問・誤解と回答

致死的な副作用のある医薬品を承認するのは問題があるのでは? 

それはケース・バイ・ケースです。 確かに、死に至る恐れのない疾病や、安全な治療法が確立された疾病においては、致死的な副作用のある医薬品を承認すべきではありません。 しかし、死に至る疾病で、かつ、安全な治療法が確立されていない疾病では、違います。 その場合、致死的な副作用があっても、それを上回る有効性のある治療法を承認すれば、患者の命を救うことができます。 もちろん、治療によって死ぬ可能性もありますが、それ以上に多くの人を救えるなら、それは必要な治療法です。 また、副作用死は、慎重な投与等によって、確率を下げることが可能です。 よって、致死的な副作用の可能性があることだけを理由にして、有効な治療法を承認しないことは、患者を死に追いやる行為であり、それこそが許されない行為です。

イレッサは悪魔の薬ですか? 

イレッサについて、副作用に比べて治療効果が高いことは、大阪地裁・東京地裁において イレッサの有効性は,平成14年7月の輸入承認時及び現在のいずれにおいても,肯定することができる。 大阪地裁判決要旨-薬害イレッサ弁護団 承認当時の医学的,薬学的知見の下で,有用性を肯定することができた 薬害イレッサ訴訟東京判決要旨-薬害イレッサ弁護団 と認められたとおりです。

副作用死が起きても医師の責任はないのですか? 

それはケース・バイ・ケースです。 どんなに手を尽くしても確率的に避けられない死について、医師の責任を問うのは間違っています。 一方で、死の確率を無駄に上げたとすれば、その死の確率向上については医師の責任が問われるべきです。 医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。 医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。 平成4(オ)251 損害賠償 平成8年01月23日 最高裁判所第三小法廷 とされているように、添付文書に記載された基本的な注意書きさえ守らないような医師は論外です。

国や製薬会社が間質性肺炎の危険性を隠蔽したって本当? 

それは大嘘です。 製薬会社は間質性肺炎の記載について消極的であったとされますが、国の指導を受けて、最初の添付文書の「重大な副作用」欄に書かれました。 「重大な副作用」欄の記載については,日本製薬工業協会の自主基準において,「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する」 「重篤度分類グレード3」は,厚生省薬務局安全課長通知により,「重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの 東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団 です。 つまり、添付文書には「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのある」であることが最初から明記されていました。

地裁判決が情報隠蔽を認めたと主張する人もいますが、それは大きな誤りです。 判決が「間質性肺炎の危険性を公表していなかった」としたのは プレスリリースやホームページにおいて 大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団 の話であって、それ以外の手段での公表をしなかったと認めたわけではありません。

以上のとおり、記載に消極的であった製薬会社の意図が何であれ、間質性肺炎の危険性を隠蔽したとする事実は存在しません。

添付文書は患者にも理解できるように書くべきでは? 

医療用医薬品は、医師の管理の元でしか使えないのだから、その医薬品については医師が説明すべきなのであって、添付文書を患者に理解できるように書く必要はありません。 そのことは、大阪地裁・東京地裁においても 製造物責任法上,製薬会社が,医療用医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な指示・警告をする対象者は医師等であって,患者はこれに含まれない 大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団 医療用医薬品のように医師等が使用することが予定されているものについては,これを使用することが予定された医師等の知識,経験等を前提として,当該医師等が添付文書に記載された使用上の注意事項の内容を理解できる程度に記載されていれば足りる 東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団 と認めています。 よって、医療用医薬品の添付文書は、医師が理解できるように書けば事足りるのであって、患者にも理解できるように書く必要は全くありません。

間質性肺炎の危険性は添付文書の目立たない場所に書いてあった? 

それは大嘘です。 以下は、添付文書第1版の「重大な副作用」欄の記載内容です。

イレッサ第1版添付文書
添付文書第1版-イレッサ薬害被害者の会(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?homepage3.nifty.com/i250-higainokai/iressa-tenp/iressa-01-200207.PDF)

「重大な副作用」欄に4つの副作用が同列に併記されており、間質性肺炎も他の副作用と同じ大きさの字で書かれています。 このように、間質性肺炎が目立たない場所に書かれたとする事実は存在しません。

下痢や皮膚障害の後では、軽い副作用と誤解されるのでは? 

それは素人の勘違いです。 「重篤な副作用」欄に記載される副作用は、排便異常、外見変化、苦痛ではなく「重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの 東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団 です。

よって、「重篤な副作用」欄に下痢や皮膚障害が書かれているのは、これらが排便異常、外見変化、苦痛についてではなく、「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのある」ことを注意喚起しているものです。 下痢は、発展途上国では主な死因の一つとなるほど、重症時には致死的となる副作用です。 これと同様に、皮膚障害(中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑)も致死的な副作用となり得ます。 これらの副作用が致死的となり得ることは大阪地裁でも それぞれEAPの副作用報告で死亡例が1例ずつ確認されている 大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団 と認められた通りです。

以上のとおり、間質性肺炎とともに併記された副作用はいずれも致死的となり得る副作用であるので、これらの後に書いたからと言って排便異常、外見変化、苦痛よりも軽い副作用と誤解される余地はありません。

風邪薬と同等の記載内容では警戒を怠っても当然では? 

それは素人の勘違いです。 他の医薬品と比較するならば、文面の類似性ではなく、重篤度と発生頻度の類似性について注目すべきです。 そして、イレッサと風邪薬について、重篤度と発生頻度の類似性を認める根拠は全くありません

大阪・東京両地裁の判決でも 平成14年7月当時の薬剤性間質性肺炎についての知見は,抗がん剤による薬剤性間質性肺炎の予後が不良であって重篤で致死的な転帰をたどるとの知見が存在していたとまでいうことはできず,抗がん剤ごとに発症頻度,発症傾向,予後等については異なるとの考え方が一般的であった。 大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団 薬剤性間質性肺炎については,イレッサの承認当時,その予後は薬剤により異なり得るものであり, 東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団 と認めたように、間質性肺炎の重篤度は薬剤によって異なるため、風邪薬と記載内容が同じであっても重篤度まで同じとは言えません。

また、記載内容の類似性は、発生頻度が同一であることを意味しません。 風邪薬のような使用実績が多い医薬品では、実績に基づいて発生頻度を推測することが可能です。 しかし、全く新しいタイプの抗がん剤であるイレッサは、使用実績が乏しいので、実績からの推測が困難です。

以上のとおり、重篤度においても、発生頻度においても、風邪薬と同等とみなす根拠がありません。 よって、風邪薬の添付文書と比較して記載内容がどれだけ類似性していようとも、警戒を怠って良いことにはなりません。

最初の添付文書の記載内容に不備があったから何度も改訂したのでは? 

添付文書の書き直しの回数と記載内容の適否の間には何の因果関係もありません。 何故なら、書き直し回数が多くなった原因は、次の2通りが考えられるからです。

  • 当初の対応は適切だったにも関わらず予想外の事態が次々に起こり、その都度、記載内容を改める必要が生じた。
  • 当初の対応が不適切なために予見可能な副作用被害が多発し、記載内容を改める必要が生じた。

大阪地裁の判決でも 事後的に添付文書の内容すなわち指示・警告の内容が改訂されたとの事実をもって,直ちに引渡時点における指示・警告上の欠陥の存在を推認することはできず 大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団 とされています。

間質性肺炎が多大な副作用被害を生むことは承認時に知り得たのでは? 

国や製薬会社が承認当時に知り得たことは、可能性が否定できない程度の漠然とした情報であって、間質性肺炎の発生頻度や重篤度を予測することは困難でした。 それは、大阪地裁や東京地裁が イレッサを承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症するという明確な根拠はなかったが,同時に,間質性肺炎が発症する可能性も否定できなかった。 海外の副作用報告からは、イレッサによる間質性肺炎等の発症頻度を的確に把渥することは困難であり, イレッサにより発症しうる間質性肺炎が,従来の抗がん剤に比べて,致死的ないし重篤なものであったとまで判断することはできなかった。 イレッサの副作用による間質性肺炎が急性間質性肺炎の特徴を有するものであるなどの特徹を把握することまでは困難であった。 大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団 参考試験やEAP症例の副作用報告を考慮しても,「イレッサにより,承認用量で,間質性肺炎が従来の抗がん剤と同程度の頻度や重篤度で発症し,致死的となる可能性がある」と認められるものではあったが,間質性肺炎の発症頻度や,早期に発症して予後が悪い等の発症傾向を予見させるものとはいえなかった。 東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団 と認定した通りです。 そして、その漠然としたレベルの可能性については、「重篤な副作用」欄への記載で「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」として、添付文書で正確に情報を開示しています。

最初から警告欄に書けば副作用死被害を大幅に減らせたのでは? 

果たして、「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのある」重大な副作用を軽視する医師が、警告欄に書いた程度で添付文書を重視するでしょうか。 事実、東京訴訟の原告のうちの1人の主治医は、改定後の警告欄等の記載 少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で、間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。 急性肺障害、間質性肺炎等が疑われた場合には、直ちに本剤による治療を中止し、ステロイド治療等の適切な処置を行うこと。 イレッサ添付文書第4版2003年12月改訂-イレッサ薬害被害者の会 を無視しています。 この主治医は、投与開始直後に外泊許可だけでなくドライブまで許し、 右下葉湿潤が増悪し,肺炎として治療を開始した 最終準備書面(第3分冊)-薬害イレッサ弁護団 にも関わらずにイレッサ投与を中止せず、ステロイド治療の開始が3日も遅れています。 これでも、警告欄に書きさえすれば、不届きな医師の行為を改めさせることができたと言えるのでしょうか。

確かに、イソップ寓話の狼少年的な警告が、一時的、かつ、一定程度の効果を持つ可能性は否定できません。 しかし、イソップ寓話で村人が少年の嘘に慣れたのと同様、直ぐに、不届きな医師も大げさな警告欄に慣れるのではないでしょうか。 そして、大げさな警告欄に慣れた医師は、不確実な情報に基づいた警告だけでなく、確実な情報に基づいた警告まで軽視するようになるのではないでしょうか。

たび重なる誤警報の結果、警報が信頼されなくなることがある。 これは、誤報効果(false alarm effect)と呼ばれる。 また、イソップ童話にちなんで「狼少年効果」と呼ばれることもある。
誤報効果の例として、我々は、日常生活の中で、火災報知器の非常ベルが誤作動だったということを時折体験するが、 このことが何度も続くと、人々は非常ベルを聞いても火災とは思わず、何の対応もしなくなってしまう、ということがあげられる。
このように警報などが空振りに終わったとき、人々の情報に対する信頼性が低下し、次の警報が無視されがちになる。
原子力防災基礎用語集:誤報効果-財団法人原子力安全技術センター(http://www.bousai.ne.jp/vis/bousai_kensyu/glossary/ko29.html)

不確実な情報を警告欄に掲載した結果、確実な情報に基づいた警告までもが軽視されるのでは、逆効果ではないでしょうか。 不確かな情報を重視させたいのであれば、使用者に不確かな情報であっても重視すべきであることを正しく認識させるべきです。 不確かな情報を不確かなまま大げさに警告することでは、本当の意味での警告にはなりません。


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