イレッサ訴訟東京地裁誤判(不当判決)の原因

誤審の概要 

全体しては東京地裁判決には大阪地裁の誤判のような論理の飛躍はなく、判決理由の一通りの流れの説明は出来ている。 しかし、論理矛盾があることは大阪地裁と大差がない。 ただ、論理の飛躍がない分だけ、何処でどのような誤審をしたのかが明確であり、反論もしやすい。

そして,前記のとおり,イレッサの副作用には重篤なものはないと考えられる可能性があったのであるから,被告国の認識を医師等に明確に伝えるため,「特に注意を喚起する必要」があったものと認められる。(III-152-153)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

大阪地裁判決では「特に注意を喚起する必要」が何かを明確に述べていない。 一方、東京地裁判決では、「イレッサの副作用には重篤なものはないと考えられる可能性があった」と明確に定義している。 この定義が成立しないことを以下、詳細に述べる。

過失の存在 

東京地裁の認定事実関係は次のとおり。

  • イレッサの「重大な副作用」欄には間質性肺炎が記載されていた。
  • 「重大な副作用」欄に記載する副作用は重篤度グレード3の副作用である。
  • イレッサの「重大な副作用」のうち重篤度グレード3未満だと誤認される記載があったとする認定はない。
  • 一般論として、薬剤性間質性肺炎は「重大な副作用」に該当しないとする知見があった。
  • イレッサは、従来の抗がん剤に比べて副作用が軽いとのイメージが抱かれやすかった。
  • 当時、一般の医師等がイレッサの間質性肺炎の文献を調べることは困難であった。

これらが示すことは、次のとおり。

  • 1番と2番の事実より、イレッサの間質性肺炎が重篤度グレード3であると分かる。
  • 3番の事実は、イレッサの「重大な副作用」が重篤度グレード3未満だと誤認される理由にならない。
  • 4番の事実は、「重大な副作用」欄に記載された副作用が「重大な副作用」に該当しない理由にならない。
  • 5番の事実は、「重大な副作用」欄に記載された副作用が「重大な副作用」に該当しない理由にならない。
  • 6番の事実は、イレッサの間質性肺炎が重篤度グレード3ではない根拠とならない

よって、イレッサの間質性肺炎が重篤度グレード3であることは明らかであり、誤認の余地はない。 また、東京地裁は、重篤度グレード3が「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」であるとも認定している。 にもかかわらず、東京地裁は、「危険性を読み取ることは必ずしも容易ではなかった」とする事実認定と矛盾する結論を導いている。

日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全 

また,「重大な副作用」欄の記載については,日本製薬工業協会の自主基準において, 「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する」こととされており,医薬品情報学の教科書等においても,そのような理解がされていたところ, 「重篤度分類グレード3」は,厚生省薬務局安全課長通知により,「重篤な副作用と考えられるもの,すなわち, 患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」とされ, 間質性肺炎はグレード3に当たるものとされていた。(III-144)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


「重大な副作用」欄には致死性のあるもののみが記載されることとはされていないことなども併せ考えると,これらの記載ぶりによっては, イレッサを使用する医師等が,イレッサの副作用である間質性肺炎が致死的となり得る重篤なものとして発症する可能性があるという危険性を読み取ることは必ずしも容易ではなかったものと認められる。(III-150)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


(2)被告らは,間質性肺炎の副作用が「重大な副作用」欄に記載してある以上,イレッサを使用する医師等には, グレード3の「重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」であることが理解でき, 添付文書は熟読すべきものであるから,何番目に書いてあるかはそれほど意味がない旨の主張をしている。(III-151)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

東京地裁は、「致死的となり得る重篤なものとして発症する可能性があるという危険性を読み取る」ためには、次の前者の認識が必須で、後者の認識では足りないとしている。

  • 死亡
  • 日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの

後者は、平たく言うと、かろうじて死は免れたが身体に重大な障害が残る副作用という意味である。 だから、前者は許されないが後者は許される、ということは決してあり得ない。 患者の立場に立ってみれば、前者よりも、むしろ、後者の方が許容し難い副作用かも知れない。 死よりもつらい障害が残る可能性があるならば、致死的な副作用と同程度には警戒すべきだろう。 よって、少なくとも、イレッサの間質性肺炎が「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」であると分かっていたなら、当然、医師は致死的な副作用と同程度に十分な警戒をすべきであるはずである。 致死的な副作用と同程度に警戒すべき重大な副作用があると認識しているなら、致死的な副作用があると認識していることと大差ない。 それならば、実質的には「致死的な副作用がほとんどないものと理解される可能性があった」とは言えないだろう。

「死亡」と「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全」は同程度に警戒すべき副作用であり、少なくとも、危険性の面では両者を区別する必要は全くない。 よって、「致死性のあるもののみが記載されることとはされていない」としても、「致死性のあるもの」以外の記載内容が「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全」であるのだから、危険性の程度の差としては「致死性のあるもの」と大差はない。 にもかかわらず、両者を別物として扱い、「致死的となり得る重篤なものとして発症する可能性があるという危険性を読み取ることは必ずしも容易ではなかった」とすることは重箱の隅を突いた揚げ足取り以外の何物でもない。 いくら原告に肩入れしたいからといって、中立的であるべき裁判所判決であるのだから、こんな詭弁は許されるものではない。

医師が知り得た情報 

4 本件添付文書第1版の記載等
(1)本件添付文書第1版の記載内容は,前記前提事実第3節第4の6,前記第1章第2節第2の1(12)のとおりであり,「警告」欄は設けられず, 間質性肺炎については,「使用上の注意」の「4.副作用」の「(1)重大な副作用」の4番目に「間質性肺炎(頻度不明): 間質性肺炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を申止し,適切な処置を行うこと。」とのみ記載され (なお,「重大な副作用」欄の1番目には「重度の下痢(1%未満),脱水を伴う下痢(1〜10%未満)」が, 2番目には「中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑(頻度不明)」が,3番目には「肝機能障害(1〜10%未満)」が記載されていたが, これらの副作用はほとんど致死的となるものではなく,審査センターもそのように評価していた。 前記前提事実第3節第4の3(1)の審査報告(1)の【正常臓器に対する本薬の影響について】参照), それ以外の項目には間質性肺炎に関する記載はされなかった (なお,「使用上の注意」の「慎重投与」欄及び「重要な基本的注意」欄には,肝機能,下痢,皮膚の副作用についての記載はあったが,間質性肺炎についての記載はなかった。)。(III-145)
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本件添付文書第1版を見た医師らにおいて,「重大な副作用」欄に間質性肺炎の記載があることのみをもって,イレッサの副作用である間質性肺炎が, 審査センターが当時判断したような,従来の抗がん剤と同程度の頻度及び重篤度で発症し,致死的となり得るものであることを直ちに理解することは困難であったと認められる。~(III-150〜151)
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判決文では、「イレッサを使用する医師等」は、次の理由により、イレッサの間質性肺炎の危険性を読み取れなかったとしている。

  • 「これらの副作用はほとんど致死的となるものではなく」とする審査センターの評価を前提として、相対的に間質性肺炎も致死的でないと判断した
  • 「従来の抗がん剤と同程度の頻度及び重篤度で発症し,致死的となり得るもの」とする審査センターの判断を直ちに理解することは困難であったた

果たして、「イレッサを使用する医師等」は審査センターの評価や判断を知っていたのか、知らなかったのか、どちらなのか。

審査センターの評価や判断を知っていたならば、「従来の抗がん剤と同程度の頻度及び重篤度で発症し,致死的となり得るもの」とする審査センターの判断も当然知っていたはずである。 それならば、「本件添付文書第1版を見た医師ら」は、当然、「従来の抗がん剤と同程度の頻度及び重篤度で発症し,致死的となり得るもの」と理解するはずである。

「重大な副作用」欄に記載がある副作用は「重篤度分類グレード3」に分類される副作用である。 だから、審査センターの評価や判断を知らないならば、記載内容からは、「肝機能障害,下痢,皮膚の副作用」も致死的になり得ると理解できる。 百歩譲っても、「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」との認識は持ち得たはずである。 よって、イレッサの間質性肺炎が「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」との認識することは十分に可能である。

このように、どのような前提であっても「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」との認識は持ち得たはずである。 もちろん、これは、東京地裁判決の様な「肝機能,下痢,皮膚の副作用」についてのみ審査センターの評価や判断を知っていて、間質性肺炎の審査センターの評価や判断を知らないなどという、あり得ない前提を持ち出さない限りの話である。

後知恵に基づく後方視的な批判 

症例によってはときに致死的となるということがうかがわれたにとどまり,早期(急性)に発症したものの予後が悪いという傾向はうかがわれなかったものと認められる。(III-128)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


しかしながら,そもそもイレッサによる間質性肺炎の副作用症例であることが不明確な症例も含めていることに加え, 症例数が少ないこと及びEAPの副作用報告の信用性が相対的に低いことも考慮すると,エビデンスとしては,安全性情報としても非常に弱いものであったといわざるを得ず, このようなエビデンスからは,イレッサによる間質性肺炎について,早期(急性)に発症したものの予後が悪いことを予見することができたと認めることはできない。(III-129)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


これらのデータから,発症後死亡する症例では比較的早期に死亡する傾向をうかがわせるエビデンスが全くなかったとはいえない。 しかしながら,症例数が少ないことに加え,EAPの副作用報告の信用性が相対的に低いこと及び EAP症例の患者は一般的に予後が悪いものと考えられることも考慮すると,エビデンスとしては,安全性情報としても非常に弱いものであったといわざるを得ず, このようなエビデンスからは,イレッサによる間質性肺炎について,発症後死亡する症例では比較的早期に死亡することを予見することができたと認めることはできない。(III-129)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


(1)国内臨床試験 3例 うち 死亡0例
これらは,いずれも500mg/日投与例であった。
(2)国外臨床試験 5例 うち 死亡4例
(INTACT 3例 うち 死亡2例)
このうち,乙B13の2,丙B3の63,丙B3の190は500mg/日投与例,その余は投与量不明例であった。
(3)EAP 15例 うち 死亡9例(我が国の症例2例うち死亡1例)(III-131〜132)
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東京地裁判決では、承認当時に報告があった間質性肺炎の発症例は次の何れかとされる。

  • イレッサの副作用症例であることが不明確な例
  • 信用性が低いEAP症例
  • 倍量投与例または投与量不明例

つまり、承認用量で間質性肺炎が発症する確実な証拠はなかった。

国内臨床試験において重篤な副作用として間質性肺炎の発現が見られたが,他の新規抗がん剤と比べた場合, イレッサの国内臨床試験における間質性肺炎の発症頻度及び重篤性が特に高いものであるという根拠はなく,参考試験やEAP症例の副作用報告を考慮しても, 「イレッサにより,承認用量で,間質性肺炎が従来の抗がん剤と同程度の頻度や重篤度で発症し,致死的となる可能性があると認められるものではあったが,間質性肺炎の発症頻度や,早期に発症して予後が悪い等の発症傾向を予見させるものとはいえなかった。(III-137〜138)}
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


そして,前記のとおり,イレッサの副作用には重篤なものはないと考えられる可能性があったのであるから, 被告国の認識を医師等に明確に伝えるため,「特に注意を喚起する必要」があったものと認められる。(III-152-153)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

東京地裁の認定するように発症頻度や発症傾向を予見できないならば、承認当時、イレッサの間質性肺炎は重篤度グレード3の認識で間違いがない。 添付文書第1版では重篤度グレード3の副作用を重篤度グレード3相当の「重大な副作用」欄に記載したのである。 これにより、医師に重大な過失が無ければ、イレッサの間質性肺炎が重篤度グレード3相当であると正しく認識できる。 よって、添付文書第1版は、承認時の知見と違う認識を医師に与える恐れはない。

確かに、緊急安全性情報発出時の知見と比較すれば、「重篤なものはないと考えられる可能性があった」と言えるだろう。 しかし、承認時に知り得なかった事実が医師に伝わらないことついては、「特に注意を喚起する必要」も承認当時には認識不可能である。 「特に注意を喚起する必要」は緊急安全性情報発出時の知見であり、承認時に知り得ない「被告国の認識」に基づいて過失責任を認定するなら、それは後知恵に基づく後方視的な批判であろう。

(3)以上によれば,被告国は,イレッサによる間質性肺炎の副作用について,その承認前の時点において,他の抗がん剤と同程度の頻度や重篤度で発症し, 致死的となる可能性のあるものであると認識・判断していたものと認められ,その認識・判断は国内臨床試験の結果等に基づく合理的なものであると認められる。(III-140)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


また,仮に,「警告」欄に記載しないものとしても,間質性肺炎の副作用は他のいずれの副作用と比較しても重篤なものであるから(イレッサの副作用のうち最も重篤なものである。),前記「使用上の注意の記載要領」等にかんがみると,「重要な基本的注意」欄又は「重大な副作用」欄の,他の副作用よりも前の方に記載するのが相当であり,かつ,致死的なものとなる可能性があることを「重要な基本的注意」欄又は「重大な副作用」欄に記載するのが相当であった。(III-153)
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大阪地裁の判決文も、東京地裁の判決文も、承認当時において、「イレッサの副作用のうち最も重篤なものである」と判断できた根拠を示してない。 いずれも、「従来の抗がん剤と同程度の頻度や重篤度で発症し得るものであり致死的なものとなる可能性のある」とする漠然とした可能性を認定しただけである。 しかし、可能性で論じるならば、「他のいずれの副作用」にも「最も重篤なものである」可能性がなかったとは言えない。 「間質性肺炎の副作用は他のいずれの副作用と比較しても重篤なもの」と確定したのは、副作用被害の報告があってからである。 当時分かっていなかった事実を持って過失責任を問うのは明らかに間違っている。

警告だらけになる懸念 

なお,この点につき,被告会社は,致死的であるものをすべて「警告」欄に記載すると抗がん剤の添付文書は「警告」欄だらけになると主張するが,イレッサについては,間質性肺炎のほかには「警告」欄に記載すべきものはないから,被告会社の主張は当たらないというべきである。(III-153)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

判決文では、イレッサの事例だけ、しかも、“薬害”発生後の知見のみを適用して、被告の反論を却下している。 何時から日本は法治国家ではなくなったのか。 法治国家ならば、イレッサに適用される法令は、当然、他の医薬品にも適用されるはずである。 法律で具体的に示された理由も無しに、イレッサだけを狙い撃ちにして特別な法律が適用されることはない。 ならば、当然、イレッサの事例だけでなく、他の医薬品の事例についても、承認段階の知見を当てはめて検証しなければ、警告欄に記載すると警告だらけになるとする主張の妥当性は否定できないはずである。

少なくとも「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」であることが分かる副作用を軽視する医師に対して、「警告」欄を充実しても、イソップ寓話の狼少年になるだけである。 警告としての意味を持つのは最初だけであり、重大な副作用を軽視する医師が慣れてきたらまた同じ過ちを犯すに決まっている。

一般論のすり替え 

とりわけ,薬剤性間質性肺炎については,イレッサの承認当時,その予後は薬剤により異なり得るものであり,一般に,薬剤性間質性肺炎の予後は概して良好であるが, 従来の殺細胞性の抗がん剤や免疫抑制剤による直接的な細胞障害を来すものは予後は不良であるというような知見も存在していた上,イレッサが分子標的薬であって従来の抗がん剤とは作用機序の異なるものであることや, イレッサによる間質性肺炎が致死的なものとなり得ることについては一般の医師等が文献等を参照することによって容易に認識できる状況にはなかったことなどを併せ考えると, 本件添付文書第1版を見た医師らにおいて,「重大な副作用」欄に間質性肺炎の記載があることのみをもって,イレッサの副作用である間質性肺炎が, 審査センターが当時判断したような,従来の抗がん剤と同程度の頻度及び重篤度で発症し,致死的となり得るものであることを直ちに理解することは困難であったと認められる。~(III-150〜151)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

「薬剤性間質性肺炎の予後は概して良好」という知見があったなら、それは、一般論として、薬剤性間質性肺炎が「重篤度分類グレード3」になることは少ないとの認識を与えよう。 しかし、一般論は具体論を覆す根拠にはならない。 「重大な副作用」欄に記載されているならば、その医薬品については「重篤度分類グレード3」であると認識するのが当然である。 一般論が「重篤度分類グレード3」ではないことを理由として、「重大な副作用」欄に記載されている医薬品まで「重篤度分類グレード3」と認識されないとするのは暴論も甚だしい。

尚、イレッサ発売の2002年当時、「一般に,薬剤性間質性肺炎の予後は概して良好」とする知見はない。

わが国においては約140種類の漢方薬が保険診療のなかで使用可能であり、有効な治療法のない慢性疾患等に対して多くの漢方薬が用いられている。 1996年慢性肝炎患者に対して投与された小柴胡湯による間質性肺炎が報告されたことを受けて緊急安全性情報(ドクターレター)が発出され、必要な注意喚起が行われた。 また、小柴胡湯に限らず広く薬剤性肺炎の報告のある製剤についても、これまで添付文書の改訂が行われ、注意喚起が行われてきており、 1998年には医薬品等安全性情報146号において、「漢方製剤による間質性肺炎について」として医療関係者に対し注意喚起が図られたところである。
小柴胡湯単独による薬剤性肺障害100例の臨床像では、年齢は64.5±8.2歳、男女比69/31例、小柴胡湯の治療対象疾患は、慢性肝炎52例、肝硬変症29例、肝機能障害18例、特発性血小板減少症1例であり、HCV抗体陽性率は76%であった。 肺障害発症までの平均期間は78.9日、症状としては咳嗽、呼吸困難、発熱がそろって発現し、検査所見ではLDHが高く、低酸素血症が高度であるのに比し、白血球数の増加とCRP上昇が軽度であった。 末梢血の薬剤リンパ球刺激試験では、実施された症例の55.7%が陽性、44.3%が陰性であった。 胸部の画像所見ではスリガラス影と肺胞性浸潤影が主体であった。 治療に対する反応は、小柴胡湯の中止のみによって12例が軽快し、29例がステロイド経口投与で軽快し、ステロイドパルス療法が50例になされた。 全体で90例が速やかに治癒したが10例が死亡した。 死亡例を生存例と比較すると、死亡例では発症から服用中止までの期間が長く(15.9日vs5.8日)、既存に呼吸器疾患を合併(30%vs2.2%)した例の予後が不良であった。
重篤副作用疾患別対応マニュアル間質性肺炎(肺臓炎、胞隔炎、肺線維症)平成18年11月厚生労働省(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b01.pdf)

小柴胡湯等の漢方製剤は「殺細胞性の抗がん剤」どころか「抗がん剤」ですらなく、抗がん剤等に比べれば比較的安全と認識されている医薬品だろう。 そうした比較的安全と認識されている医薬品の間質性肺炎でも発症例100例中の10例が死亡しており、1996年に緊急安全性情報が発出されているのである。

被告への反論放棄 

(2)被告らは,間質性肺炎の副作用が「重大な副作用」欄に記載してある以上,イレッサを使用する医師等には, グレード3の「重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」であることが理解でき, 添付文書は熟読すべきものであるから,何番目に書いてあるかはそれほど意味がない旨の主張をしている。
しかしながら,前記のとおり,薬剤性間質性肺炎の予後は,薬剤により異なり得るものであり,一般に,薬剤性間質性肺炎の予後は概して良好であるが, 従来の殺細胞性の抗がん剤や免疫抑制剤による直接的な細胞障害を来すものは予後は不良であるというような知見も存在していたのであるから, イレッサによる薬剤性間質性肺炎が致死的となり得るものであることは,本件添付文書に記載がない限り,一般の医師等には容易には認識できなかったものと認められる上, イレッサは,従来の抗がん剤と異なる作用機序を有する分子標的薬であって,従来の抗がん剤にほぼ必発であった血液毒性等がなく, 従来の抗がん剤に比べて副作用が軽いとのイメージが抱かれやすかったことに加え,本件添付文書第1版において,下痢,皮膚,肝機能の副作用の後に間質性肺炎が記載されていること (「重大な副作用」欄に,間質性肺炎が4番目に記載されていたことのほか,「使用上の注意」の前の方の項目(重要な基本的注意等)には, 下痢,皮膚,肝機能の副作用については記載されていても,間質性肺炎については記載が全くなかった。)により, イレッサによる薬剤性間質性肺炎の重篤度が誤解される可能性があったことなどを併せ考えると,本件添付文書第1版の記載では, イレッサを使用する医師等には,イレッサによる薬剤性間質性肺炎が従来の殺細胞性の抗がん剤と同程度の頻度と重篤度で発症し, 致死的となる可能性のあることまで認識することは困難であったものというべきである。(III-151〜152)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

何と、裁判官ともあろう者が、被告の主張に対して正面から反論せず、逃げてしまった。 確かに、判決文では、被告の主張のうちの「死亡」に関しては、反論を試みてはいる。 しかし、東京地裁は「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」は完全に無視して反論を試みようとすらしていない。 そして、判決文で試みられた反論も以下の通り、論理矛盾の塊である。

  • 具体論を覆せない一般論(薬剤性間質性肺炎の予後は概して良好)
  • 単なる印象(単なる従来の抗がん剤に比べて副作用が軽いとのイメージが抱かれやすかったこと)
  • 既に説明した通りのダブルスタンダード(本件添付文書第1版において,下痢,皮膚,肝機能の副作用の後に間質性肺炎が記載されていること)

「多くの医師等」 

これらの統計によれば,イレッサによる間質性肺炎の副作用の発現は,本件緊急安全性情報の発出前の3か月間に投与を開始されたものにつき344例(うち死亡例162例)であったのに対し, 本件緊急安全性情報の発出後の2か月余りに投与を開始されたものにつき102例(うち死亡例38例)であったというのであり, 本件緊急安全性情報の発出後は,間質性肺炎の発現例も死亡例も,それ以前に比べてかなり減少したことが認められる。(III-146)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


このことは,本件緊急安全性情報が発出された後は,急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少していることによっても裏付けられており,現実には,イレッサを使用した医師等のうち多くの者が,本件添付文書第1版によっては,審査センターが判断したような間質性肺炎の危険性を読み取ってはいなかったものと考えられる(医師等の1〜2人が読み誤ったというのであればともかく,多くの医師等が読み誤ったと考えられるときには,医師等に対する情報提供の方法が不十分であったと見るべきである。)。(III-152)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

具体的な分母も分子も明らかにせずに「多くの医師等が読み誤った」とし、それら読み誤った医師が医師としての当然の務めを果たしたかどうかも検証していない。 これでは、本当に「多くの医師等が読み誤った」のか検証できていない。 仮に、9割の医師が正しく読み取っているならば、平均以下の医師でも認識できたことになるが、それでも副作用死の人数は十分に説明可能である。 「認識することは困難」と言うならば、少なくとも半数近くの医師が「読み誤った」ことを示すべきだろう。 また、それら読み誤った原因が医師の行為にあるならば、「多くの医師等」であっても医師の責任である。 よって、医師の行為を検証せずして、記載内容に問題があったとは言えないはずである。

因果関係 

3 因果関係
○○○○○と○○○○については,イレッサの副作用である間質性肺炎について,添付文書の第1版に致死的となる可能性のあることなどが記載されていれば,イレッサの服用を開始してこれを継続することはなく,イレッサによる間質性肺炎の発症ないし憎悪により死亡することはなかったものと認められる。
薬害イレッサ訴訟東京判決要旨-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/topics/docs/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E8%A6%81%E6%97%A8.pdf)

どうして、素人同然の藪医者が「イレッサの服用を開始してこれを継続することはなく」と断言できるのか。 「その他の副作用」欄ではなく、わざわざ、「重大な副作用」欄に書いた意味さえ読み取れずに添付文書を軽視した藪医者が、どうして、「添付文書の警告欄に記載」か「他の副作用の記載よりも前の方に記載し,かつ,致死的となる可能性のあることを記載」であれば軽視しないと断言できるのか。

大阪地裁も東京地裁も第3版以降の添付文書は問題がないとして、第3版発行以降の賠償責任は否定してる。

その余の死亡した1名の患者との関係では,イレッサには指示・警告上の欠陥等はなかったというほかなく,したがって,その遺族である原告らの請求には理由がない。
薬害イレッサ訴訟東京判決要旨-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/2011/02/26/data/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E8%A6%81%E6%97%A8.pdf)


○○○○については,イレッサの服用を開始した当時,既に添付文書にイレッサの副作用である間質性肺炎が致死的となり得るものであることが記載されており,被告らは損害賠償責任を負わない。
薬害イレッサ訴訟東京判決要旨-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/topics/docs/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E8%A6%81%E6%97%A8.pdf)

つまり、第3版以降の添付文書を見れば「イレッサの服用を開始してこれを継続することはなく,イレッサによる間質性肺炎の発症ないし憎悪により死亡することはなかった」はずである。 それが、事実と一致しているか検証してみよう。

2002(平成14)年10月17日から化学療法の4クール目が始まり,その途中の同年11月7日,体力温存のため,一旦化学治療を停止した。
イ ●●医師によるイレッサの説明11月7日の面談で,原告Aが,「次の治療までの期間はどれくらいですか」と聞いた際,医師からイレッサの説明がなされた。
●●医師から前にイレッサのことを聞いて以降,原告Aはイレッサの新聞報道を読んでいた。 そこで,原告Aは●●医師に対し,「イレッサは問題があるのではないですか」と尋ねた。 これに対して●●医師は「イレッサは,飲むだけでよく,がん細胞だけ攻撃します。20から30%の人に効きます。今の化学療法よりも副作用は低いです。」と説明した。
●●医師の説明を聞いて,原告Aは,イレッサを飲めば20~30%の人が命が伸び,副作用はほとんど起きないのだと考え,イレッサを使うことにした。
最終準備書面(第3分冊)-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/saijun3.pdf)


(5)イレッサの服用開始
Bは,化学療法と放射線治療が終了した後,イレッサによる治療のため,2003(平成15)年1月28日,がんセンターに入院した。
イレッサの服用前には,原告AとBが●●医師から再度の説明を受けた。 そのときも,●●医師は,従前の説明と同様に,がんを狙い撃ちする薬であって,20~30%の人に効くとの有効性を強調する一方で, 副作用は従来の抗がん剤より低いことを説明していた。 具体的には,「肺がん治療の切り札」とイレッサを評価し,「最近重大な副作用として間質性肺炎が問題になっています。 0.2~0.4%の方が肺炎で命を落としました。」,「その他,皮疹や下痢,皮疹に伴うかゆみ,肝障害などがみられます。」と説明した。
最終準備書面(第3分冊)-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/saijun3.pdf)

2002年度の新規投与患者数は6000人であるが、12月時点ではもっと少ないと予想される。 2002年12月までの死亡報告数は累計で180人であり、分母を最大にとっても、この時点で3%の死者が出ている計算になる。 この医師は、一体、どこから0.2~0.4%というデータを持ってきたのか。 尚、このときの添付文書は第4版である。

【警告】
本剤による治療を開始するにあたり、患者に本剤の有効性・安全性、息切れ等の副作用の初期症状、 非小細胞肺癌の治療法、致命的となる症例があること等について十分に説明し、同意を得た上で投与すること。
本剤の投与により急性肺障害、間質性肺炎があらわれることがあるので、胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い、 異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
また、急性肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期に発生し、致死的な転帰をたどる例が多いため、 少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で、間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。
本剤は、肺癌化学療法に十分な経験をもつ医師が使用するとともに、投与に際しては緊急時に十分に措置できる医療機関で行うこと。 (「慎重投与」、「重要な基本的注意」および「重大な副作用」の項参照)**
イレッサ添付文書第4版2003年12月改訂-イレッサ薬害被害者の会(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?homepage3.nifty.com/i250-higainokai/iressa-tenp/iressa-04-200212.pdf)


2. 重要な基本的注意
(1)急性肺障害、間質性肺炎等の重篤な副作用が起こることがあり、致命的な経過をたどることがあるので、 本剤の投与にあたっては、臨床症状(呼吸状態、咳および発熱等の有無)を十分に観察し、定期的に胸部X線検査を行うこと。 また、必要に応じて胸部CT検査、動脈血酸素分圧(PaO2)、肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)、 肺拡散能力(DLco)などの検査を行い、急性肺障害、間質性肺炎等が疑われた場合には、 直ちに本剤による治療を中止し、ステロイド治療等の適切な処置を行うこと。*
イレッサ添付文書第4版2003年12月改訂-イレッサ薬害被害者の会(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?homepage3.nifty.com/i250-higainokai/iressa-tenp/iressa-04-200212.pdf)

「少なくとも投与開始後4週間は入院またはそれに準ずる管理の下で、間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと」と書いてあるが、医師はこれに従ったのだろうか。

(6)イレッサ服用後の急激な病状の悪化
ア イレッサ服用直後の様子
Bは,入院の翌日の2003(平成15)年1月29日,イレッサ服用を開始し,以後同年2月6日まで,1日1錠ずつ服用を続けた。
服用後の同年2月1日には医師の外泊許可を得て自宅に帰り,翌2日は原告Aとドライブに出かけた。
同月3日,右下葉湿潤が増悪し,肺炎として治療を開始した
また,同月5日は,当日に外出許可を得て,原告Aともに午後3時に外出し,自宅で過ごし,同日午後7時30分ころ,病院に戻った。 このときのBの状態は,外出前と特に変わりなかった。
イ イレッサによる間質性肺炎の発症
2月6日,Bの呼吸困難が急に強まった。 同日,胸部レントゲンで両肺びまん性すりガラス陰影が出現,胸部CTも併せ,間質性肺炎と診断された。 同日,●●医師から,間質性肺炎のためにイレッサを中止すると告げられた(丙個2第1号証p279)。
最終準備書面(第3分冊)-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/saijun3.pdf)

外泊許可を出し、ドライブも許しているのでは、とても、「入院またはそれに準ずる管理の下」とは言えまい。 「右下葉湿潤が増悪し,肺炎として治療を開始した」時点で間質性肺炎の発症が疑われるにもかかわらず、その後、また、外出許可を出している。 また、「急性肺障害、間質性肺炎等が疑われた場合には、直ちに本剤による治療を中止し、ステロイド治療等の適切な処置を行うこと。」とされているのに、その処置が3日も遅れている。

東京訴訟原告の事例では、第4版の添付文書発行後も、「イレッサの服用を開始してこれを継続」し、「イレッサによる間質性肺炎の発症ないし憎悪により死亡」している。 それなのに、どうして、「イレッサの服用を開始してこれを継続することはなく,イレッサによる間質性肺炎の発症ないし憎悪により死亡することはなかったものと認められる。」と断定できるのか。

これらの統計によれば,イレッサによる間質性肺炎の副作用の発現は,本件緊急安全性情報の発出前の3か月間に投与を開始されたものにつき344例(うち死亡例162例)であったのに対し, 本件緊急安全性情報の発出後の2か月余りに投与を開始されたものにつき102例(うち死亡例38例)であったというのであり, 本件緊急安全性情報の発出後は,間質性肺炎の発現例も死亡例も,それ以前に比べてかなり減少したことが認められる。(III-146)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)


このことは,本件緊急安全性情報が発出された後は,急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少していることによっても裏付けられており,現実には,イレッサを使用した医師等のうち多くの者が,本件添付文書第1版によっては,審査センターが判断したような間質性肺炎の危険性を読み取ってはいなかったものと考えられる(医師等の1〜2人が読み誤ったというのであればともかく,多くの医師等が読み誤ったと考えられるときには,医師等に対する情報提供の方法が不十分であったと見るべきである。)。(III-152)
東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%88%86%E5%86%8A%28%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%29%5B1%5D.pdf)

公開された判決文から因果関係に関する部分が除外されているので詳細は分からないが、どうやら、これが因果関係の根拠とされているようである。 しかし、「急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少している」ことは、次のいずれが主原因か明らかではない。

  • 「警告」欄への記載
  • 緊急安全性情報の発出
  • マスコミ報道(緊急安全性情報が切っ掛けと推認できる)

「警告」欄への記載が「急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少している」とは断定できない。 東京地裁判決の「致死的となる可能性のあることまで認識することは困難であった」とする根拠は論理破綻している。 「重大な副作用」欄の記載だけで致死的となる可能性のあることは容易に認識できたのであり、容易に認識可能であっても軽視されたのだから、「警告」欄への記載によって「急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少している」とは考え難い。

最高裁が 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。 東大病院ルンバール事件最高裁判例 と判示するように、訴訟上の因果関係には「通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる」だけの「高度の蓋然性」が必要である。 一方で、東京地裁判決には、「通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる」だけの「高度の蓋然性」の証明がない。 「急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少している」ことの原因は、「警告」欄への記載のほか、他の2つの可能性も十分にある。 よって、「通常人が疑を差し挟ま」む余地が十分にあり、「高度の蓋然性」が証明されたとまでは言えない。 もちろん、「警告」欄への記載が主原因の可能性はあるが、「通常人が疑を差し挟ま」む余地が十分にある以上、「高度の蓋然性」が証明されたとまでは言えない。

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