イレッサ訴訟大阪地裁判決の解説(原告敗訴)

原告は勝訴と嘯いているが、原告の主張の殆どは退けられている。 「賠償金の請求のみを目的として提訴したものではありません」 と言いながら、賠償金しか認められなかったのだから、実質的に原告敗訴の判決である。

有効性等 

(3) 小括

以上検討したとおりであり,イレッサは,平成14年7月当時だけでなく,現在においても,その有効性が認められる。


(エ) イレッサによる間質性肺炎の発症の危険性・予後と既存の肺線維症や間質性肺炎との関係

安全性検討会での議論専門家会議での検討の結果,特発性肺線維症等の既存する患者等に対しては,間質性肺炎発症後の予後が悪い可能性があり,慎重に投与すること,特に特発性肺線維症等の既存は,発症後の転帰においては死亡につながる重要な危険因子であるため,イレッサ投与前に,特発性肺線維症等の既存の有無をCT等によって正確に評価することが提言されたのである。

また,その後のWJTOG研究報告,プロスペクティブ調査及びコホート内ケース・コントロール・スタディ等により,肺線維症の既往歴あり,以前胸部に放射線治療歴ありという因子が,間質性肺炎発症の危険因子として挙げられた。

そうすると,既存の肺線維症や間質性肺炎が存在する場合には,イレッサにより間質性肺炎を発症しやすいことがイレッサ承認後に判明したと認められる。

なお,イレッサ承認(平成14年7月)当時においても,殺細胞性抗がん剤については,既存の肺線維症や間質性肺炎がある場合には薬剤性間質性肺炎を発症しやすい可能性があるとの指摘がされていた。 しかし,イレッサ承認(平成14年7月)当時においては,間質性肺炎の病態は原因に対して非特異的で,薬剤性間質性肺炎の発症可能性や病態は,薬剤ごとに検討していくほかなかったのである。 そのため,イレッサ承認(平成14年7月)当時は,工藤報告(甲H6)のように,研究者ごとに薬剤性肺障害について得られる情報を収集して問題提起を発表している状況ではあったが,症例報告の少ない薬剤性肺障害の研究には限界があった(前記3(2)ア(ア))。

したがって,イレッサ承認(平成14年7月)当時から,既存の肺線維症や間質性肺炎がある場合に,イレッサによって薬剤性間質性肺炎を発症する可能性が高いことが判明していたとまではいえない。


(3) まとめ

以上検討したところによれば,イレッサは,イレッサ承認(平成14年7月)当時だけでなく,現在においても,セカンドライン治療のみならずファーストライン治療においても有用性が認められる。


エ 以上によれば,原告らが指摘する,専門家を利用した雑誌の対談記事の発表,学会発表の結果のプレスリリース,学術情報の提供等については,いずれも薬事法66条ないし68条にいう「広告」に当たるものと認めるに足りない。


オ このように,医療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施することを主たる目的とした制度は, 市販後調査のうちの市販直後調査であって,市販直後調査が承認条件の一つとされ,実際に行われたのであるから,市販直後調査に加え又はこれに代えて使用成績調査としての全例調査を行う必要性があったと認めることはできない。


以上によれば,第1版添付文書や第3版添付文書において上記使用限定がされなかったことにより,イレッサが,製造物責任法上,医薬品として通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。


(3)その他の過失責任について

前記第6の3,5,6(2)のとおり,被告会社には,製造物責任法上の責任として,②適応拡大による欠陥,③広告宣伝上の欠陥,④販売指示上の欠陥(使用限定を怠ったこと)はいずれも認められないから,原告らの,②適応拡大による過失責任,③広告宣伝による過失責任,④販売上の指示(使用限定)を怠ったことによる過失責任に関する主張は,その前提を欠き,いずれも理由がない。


以上によれば,イレッサは,平成14年7月当時,ファーストライン治療においても客観的に有用性はあったものというべきであるから,原告らの上記主張には理由がない。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.455-456,624-625,642,756-757,759,766,771,779-780

国の責任 

以上によれば,イレッサは,承認時点(平成14年7月時点)において,当時の医学的,薬学的知見を基準に,客観的に有用性が認められるから,厚生労働大臣がしたイレッサが薬事法14条2項所定の承認拒否事由に当たらないとの判断は,その余の点について判断するまでもなく,国家賠償法上違法であるということはできない。


しかし,前記第2の2(3)のとおり,平成14年7月当時,抗がん剤の承認審査については,II相承認は,その必要性が高く,その内容も当時の医学的,薬学的知見に照らして合理性があったというべきであり, 旧ガイドラインのII相承認の考え方を基準に,当時の医学的,薬学的知見に基づき,一般臨床試験によって腫瘍縮小効果を代替評価項目として有効性を評価し,有効性と安全性とを比較考量して総合評価して有用性を評価することには,合理性があったというべきである。 そうすると,原告らが主張する上記①ないし④のII相承認の要件が必要であるとする積極的理由はないから,旧ガイドラインとは異なる独自の要件を設定する原告らの主張を採用することはできない。

したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの上記主張には理由がない。


以上によれば,イレッサは,平成14年7月当時,ファーストライン治療においても客観的に有用性はあったものというべきであるから,原告らの上記主張には理由がない。


(エ)以上によれば,承認時において,厚生労働大臣に,イレッサによる間質性肺炎を「警告」欄に記載するよう行政指導すべき作為義務が生じていたものと認めるに足りないから,原告らの添付文書の指示・警告に関する規制権限の不行使の違法の主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。


(イ)しかし,前記第6の6(2)のとおり,平成14年12月までの副作用報告を受けて,安全性検討会における検討をした結果,承認当時の予想をはるかに超える市販後の間質性肺炎の発症があり, イレッサによる間質性肺炎の特徴として,普通の抗がん剤による肺障害とは異なり,審査時には発現していなかった投与初期(2~3週間目)に発現し,致死的な転帰をたどる例が多いこと等が明らかになったものであって,これらを踏まえて上記使用限定の必要性があることが判明したものと認められる。 すなわち,同年7月の承認時においては,上記使用限定の必要性を判断するために必要な前提事実としての上記間質性肺炎の特徴は,未だ判明していなかったものといわざるを得ない。

(ウ)そうすると,厚生労働大臣が,承認に際し,上記使用限定を付さなかったことが,当時の医学的,薬学的知見の下において,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。


(イ)しかし,前記第6の6(1)の認定・判断のとおり,医療機関に対し確実な情報提供,注意喚起等を行い,適正使用に関する理解を促すとともに,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施することを主たる目的とした制度は,市販後調査のうちの市販直後調査であって, イレッサは,市販直後調査が承認条件の一つとされ,実際に行われていたのであるから,このような事情からも,市販直後調査に加え又はこれに代えて使用成績調査としての全例調査を行う必要性があったものと認めるに足りない。

また,使用成績調査の主たる目的は,副作用情報等の安全性に関する情報を中心に適正使用情報を収集するというものであって,医療機関に対する情報提供による適正使用の理解を促し,安全性を確保することは,その副次的な効果にとどまるというべきであるから, 厚生労働大臣に,上記のような副次的な効果を上げることを目的として,使用成績調査としての全例調査を行うことを義務付けるべき作為義務が発生するということはできない。

(ウ)したがって,厚生労働大臣が,承認に際し,全例調査を義務付けなかったことが,当時の医学的,薬学的知見の下において,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。


(ウ)以上によれば,厚生労働大臣が,イレッサの承認後に,イレッサの投与後に患者が死亡したとされる症例1例(症例2)の報告を受けた平成14年8月6日時点において,直ちに添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講じなかったことや, 同日時点において原告が主張する前記情報収集をするための措置を講じなかったことが,当時の医学的,薬学的知見の下において,厚生労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。


(ウ)以上によれば,厚生労働大臣が,症例2の追加報告を受けた平成14年9月2日時点において,直ちに添付文書の改訂,緊急安全性情報の配布,その周知徹底等の安全性確保のための手段・措置を講じなかったこと, さらに,同年10月15日に緊急安全性情報を配布するよう被告会社に対して行政指導を行ったことが,その時期及び内容において,厚生労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったと認めるに足りない。


したがって,平成14年10月15日時点において,厚生労働大臣が,上記規制権限を行使したことには,その時期及び内容において,一応の合理性があったものというべきであり,14日までの時点において, 厚生労働大臣が,緊急安全性情報の配布等の措置を採らなかったことが,厚生労働大臣に与えられた権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと認めるに足りない。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.777-780,793-796,800-802

判決によれば、「高度の蓋然性をもって認識することはできなかった」のだから、国の責任を認めないは当然の帰結だろう。

製薬会社の責任 

「高度の蓋然性をもって認識することはできなかった」のに、製薬会社の責任が認められたのは何故だろうか。 判決によれば、製薬会社と国で判断が分かれた原因は、「厚生労働大臣が行う添付文書の記載に関する行政指導」と「製造物責任法上の指示・警告上の欠陥」の判断方法が異なるからである。 では、「製造物責任法上の指示・警告上の欠陥」について詳しく検証してみよう。

なお,前記第5の4(2)イの認定事実のとおり,被告会社が,間質性肺炎を添付文書の「重大な副作用」欄に記載したのは,審査センターの行政指導に従ったものであり,薬事法等の行政規制を前提とした審査センターの行政指導に従った以上,製造物責任法上の指示・警告上の欠陥に該当しないとの見解があり得る。 しかし,行政指導に従うことは,当該薬事行政上の関係における問題であって,製造業者とその使用者との法律関係とはその規制する局面が異なるものであるから,両者を同一に論じることはできない。 そして,製造物責任法は,被害者保護の観点から,製品の欠陥を制御することができ,かつ,製品の製造販売により利益を得ている製造業者等に対し,危険責任,報償責任として,欠陥のある製品を製造販売したことによる厳格な責任を負わせるという製造物責任の考え方に基づいて解釈されるべきであるから, 医薬品の添付文書は,被害者保護の観点から,イレッサについていえば,致死的な転帰をたどりうる重篤な間質性肺炎に罹患する危険から患者をいかにして守るかという観点から判断されなければならない。 したがって,行政指導に従った以上製品の欠陥はないという立論は失当である。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.745-746

「薬事行政上の関係における問題」と「製造業者とその使用者との法律関係」の「規制する局面が異なる」とする判断は法律論として完全に正しい。 これによって監督する方とされる方の責任の重さが逆転するのであれば、それは立法上の問題であって裁判所が判断することではない(ただし、補足意見としてはあり)。 そして、その場合に、どの方向で法律を改正するのか(監督する方の責任を重くするのか、監督される方の責任を軽くするのか)も立法上の問題である。

「欠陥」と損害の間の因果関係 

因果関係の立証について最高裁判例では 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。 東大病院ルンバール事件最高裁判例 と判示されており、「高度の蓋然性」として「通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる」ことが要求される。

製造物責任法では、製造業者の責任が広く取られるが、原告側の立証責任が免除されるわけではない。 逐条解説では通商産業省消費経済課の見解を元に 「従って、本法において被害者、原告側が(a)欠陥の存在(b)損害の存在(c)欠陥と損害の因果関係の存在について証明しなければならない。」 製造物責任法の逐条解説 - 北川俊光 としているように、製造物責任法でも「欠陥」と損害の間の因果関係は被害者側が立証しなければならない。 この点は、大阪地裁も、逐条解説と同じ判断をしている。

製造物責任法は,これを超えて更に被害者の立証責任を転換したものと解することはできない。

したがって,事実上の事実推定において,製造物責任法の立法経緯や同法の趣旨が踏まえられるべきであるが,製造物に欠陥が存在すること及び製造物の欠陥により損害が発生したことについての主張立証責任は,原告らが負うものと解する。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.719

では、判決では、「欠陥」と損害の間の因果関係はどのように認定されたのか。 実は、大阪地裁は、原告側に「欠陥」と損害の間の因果関係の立証責任があると認めながら、その因果関係について検証するのをど忘れしている。 なんと、大阪地裁は、「欠陥」と損害の間の因果関係の立証なしに製造物責任を認める大誤審をやらかしてしまったのである。 さらなる詳細はイレッサ訴訟誤判(細部不当判決)の原因で解説する。 それは、原告弁護団が公開しなかった部分に記載されている。

既に述べたとおり,平成14年7月(イレッサ承認)時において,亡M,亡N及び原告Lとの関係では,イレッサの警告表示上の欠陥が認められる。

被告会社に対する損害賠償責任が認められるためには,イレッサの警告表示上の欠陥と本件患者らの損害との間に因果関係が認められることが必要である。 本件においては,被告会社が適切な警告をせずにイレッサを販売したことと結果(亡M及び亡Nについては間質性肺炎の発症ないし既存の肺線維症の増悪による死亡,原告Lについては間質性肺炎の発症)との間の因果関係が問題となることから, 両者の間に因果関係があるというためには,①亡M及び亡Nについては,イレッサを投与されなかったとすれば,間質性肺炎等の発症ないし既存の特発性肺線維症の増悪が生じることはなく,これらによって死亡することはなかったこと, ①’原告Lについては,イレッサを投与されなかったとすれば,間質性肺炎等を発症することはなかったこと,②被告会社による指示・警告がなされていれば,本件患者らに対してイレッサが投与されなかったことという要件が満たされる必要がある。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.803

どういうわけか、判決では、死亡に至らないシナリオとして、イレッサを投与されなかったシナリオしか想定していない。 しかし、投与されたが適切な副作用対策が行なわれたシナリオでも死亡を回避可能であるから、「という要件が満たされる必要」は全くない。 これは、初めから因果関係有りの結論ありきでシナリオを組み立てたことによって生じた矛盾であろう。

(2)第2要件の判断枠組み

前記第4及び第6の4の認定・判断のとおり,イレッサの販売が開始された平成14年7月当時においては,1970年代後半以降の化学療法の進展に伴い,手術不能又は再発の非小細胞肺がん患者に対してもプラチナ製剤や新規抗がん剤により一定の治療効果を得られるようになっていたが, 従来の化学療法のうち最も効果の高いプラチナ製剤と新規抗がん剤との併用療法によった場合でも,奏功率は30~40%であったが,生存期間を2か月程度延長させるにとどまるものであった。 従来の化学療法の副作用の面からみても,殺細胞性抗がん剤の副作用のうち最も重篤とされていた白血球減少についても治療薬の進展に伴い,従来の化学療法が従前に比べれば安全に実施できるようになってきたが, 血液毒性の危険性がなくなるものではなく,その他にも多様な副作用の併発による危険性(副作用のために治療を中止することによるがんの進行も含む。)や,副作用によっては死に至る危険性が否定できない状況にあった。 そのため,手術不能又は再発の非小細胞肺がん患者は,従来の化学療法による治療を受けることはできたものの,多様な副作用による危険性や副作用により死に至る危険性が一定程度伴う状況に置かれていた。

他方で,イレッサは,従来の化学療法における殺細胞性抗がん剤とは作用機序が異なる分子標的治療薬とされ,その作用機序には未解明な部分があり,臨床試験によりファーストライン治療における有効性及び安全性が直接確認されておらず, 実際には間質性肺炎という致死的な転帰をたどりうる重篤な副作用があったにもかかわらず,多数の研究報告等によって,医療現場においては,殺細胞性抗がん剤と比べて副作用が少ない抗がん剤として,特に白血球減少などの血液毒性による副作用がなく, QOLを害する消化器毒性などの副作用も軽微であり,主な副作用が皮疹等であると認識されるに至っており,このような期待の下で,経口投与により投与可能であることからも広範に用いられる危険性があった。

そうすると,平成14年7月当時においては,手術不能又は再発の非小細胞肺がんにおいては十分とはいえないまでも治療上の選択肢があり,イレッサの使用される症例としては,主として,従来の化学療法におけるいずれの抗がん剤によっても治療上の効果を得ることができないと予測される症例, 従来の化学療法による治療が困難な症例(全身状態が悪化している症例及び高齢者の症例など)などが想定されていたというべきであり,他方で,イレッサの副作用たる間質性肺炎は,従来の抗がん剤と同様に,致死的な転帰をたどりうる重篤なものであり, 消化器毒性などより重篤な副作用報告が多かったにもかかわらず,イレッサの添付文書第1版の「重大な副作用」欄では,症状の程度が軽度とされていた消化器毒性などが上位に記載され,間質性肺炎は最後に記載されたにすぎないというのであるから, このことについて指示・警告がなされていれば,医師は少なくとも従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めたりはせず,また患者もイレッサの投与を同意することはなく,イレッサは上記のような重篤な症例以外には使用されることはなかったと推認することができる。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.807-809

この判断には大きく2つの判断遺脱がある。

  • 指示・警告がなされていた仮定においてイレッサよりも他の治療法を優先する(イレッサを優先しない)根拠がない
  • 重大な副作用欄を無視する医師が警告欄であれば重視したとする根拠がない

「プラチナ製剤と新規抗がん剤との併用療法」について「血液毒性の危険性がなくなるものではなく」「多様な副作用による危険性や副作用により死に至る危険性が一定程度伴う」としながら、治療の損得についてイレッサとの比較をしていない。 仮に、無条件でイレッサの方が劣ると言うなら、自身の判決の イレッサは,イレッサ承認(平成14年7月)当時だけでなく,現在においても,セカンドライン治療のみならずファーストライン治療においても有用性が認められる 平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.642 と矛盾する。 たとえ、従来の化学療法と同等の副作用死率があるとしても、イレッサは血液毒性がないというメリットを持つのだから、当然、イレッサは他の治療法と並ぶ選択肢となる。 だからこそ、「セカンドライン治療のみならずファーストライン治療においても有用性が認められる」のである。 よって、「医師は少なくとも従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めたりはせず,また患者もイレッサの投与を同意することはなく,イレッサは上記のような重篤な症例以外には使用されることはなかったと推認することができる」と断定することはできない。

後述するように、同判決は、警告欄に書けば「欠陥」はないとして、第3版添付文書に「欠陥」はないとしている。 同判決は、副作用が極めて少ないと宣伝していたことが、重大な副作用欄を軽視した原因だとしている。 だとすれば、同じ理由で警告欄を軽視しないとまでは言えないのだろうか。 重大な副作用欄を無視する医師が、どうして、警告欄であれば重視したと言えるのだろう。 言い方を変えてみると、因果関係の立証するためには、次の2つが両立することを「高度の蓋然性」レベルで証明する必要がある。

  • 副作用が極めて少ないと宣伝していれば、重大な副作用欄は軽視する
  • 副作用が極めて少ないと宣伝していても、警告欄は軽視しない

確かに、添付文書が改訂され、間質性肺炎が警告欄に書かれた後に、“薬害”が収束したのは事実である。 しかし、“薬害”が収束した原因は、本当に、警告欄に書いたためなのか。 本当は“薬害”報道で大騒ぎになったから、“薬害”が収束したのではないか。 大阪地裁の認定した事実に基づけば、医師は、添付文書より格下の情報に基づいて添付文書を軽視したのである。 だとすれば、その医師が副作用の危険性を認識したのは、添付文書の改訂によるのではなく、報道によることは十分に考えられる。 だとすれば、最初から添付文書の警告欄に書いていたとしても、“薬害”報道で大騒ぎになる前は、やはり、軽視された可能性がある。

この判決でも認定されているように、重大な副作用欄に書いてあった副作用は全て致死的な副作用であった。 また、この判決は、重大な副作用欄が致死的な可能性のある副作用を書く欄であると認定している。

また,「重大な副作用」には,重篤度分類通知(後記(エ)・丙D16)におけるグレード3(重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。)に相当する副作用が想定されていた。 (甲F10〔99~100頁〕,12〔93,99頁〕,乙P5〔88頁〕,丙P5〔71頁〕,15〔23頁〕) (エ)副作用の重篤度分類に関する指針(重篤度分類通知(丙D16))

重篤度分類通知(丙D16)は,薬事法令所定の副作用報告のより一層の適正化,迅速化を図るため,報告を行う症例の範囲についての判断の具体的な目安として作成されたものである。

a 重篤度分類通知では,副作用の重篤度を概ね次のとおり1~3の3つのグレードに分類するとされている。

「グレード1」は,「軽微な副作用と考えられるもの」

「グレード2」は,「重篤な副作用ではないが,軽微な副作用でもないもの」

「グレード3」は,「重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。」

b 重篤度分類通知の別添の「副作用の重篤度分類」のうち,呼吸器系障害の重篤度の一覧表には,間質性肺炎は,グレード3として分類されている。

イ自主基準(乙D50)

(ア)使用上の注意通達発出以前に発出されていた,製薬企業の自主的団体である日本製薬工業協会(製薬協)による自主基準(「医療用医薬品添付文書「使用上の注意」記載内容の改訂について」平成6年11月21日付け製薬協発第1445号・乙D50)においては,「警告」欄と「重大な副作用」欄の記載要領につき,次のとおり定められていた。

a 「警告」は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合又は副作用が発現する結果極めて重篤な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載する。」,「記載事項は赤枠で囲み,警告の文字は枠内に入れる。ただし,特に重要な場合は,赤字,赤枠とする。」

b 「重大な副作用」は,「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する。」

(イ)「重大な副作用」の「重篤度分類グレード3」は,重篤度分類通知(丙D16)におけるグレード3(重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの)が想定されていた。(乙P5〔88頁〕,丙P5〔71頁〕)

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.648-650

つまり、添付文書の中でも重大な副作用欄はかなり重要視すべき項目であったのである。 確かに、警告欄は重大な副作用欄よりも重要視すべき項目である。 しかし、どちらも重要視すべき項目であるなら、一方だけが軽視されると考えるのは難しい。 致死的な可能性のある副作用を書く欄を軽視する医師が、どうして、警告欄なら重視すると言えるのか。 次のいずれかならば「通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる」と言ってもあながち間違いではないだろう。

  • 重大な副作用欄も警告欄も重要視する。
  • 重大な副作用欄も警告欄も軽視する。

しかし、一方だけが軽視されることは、肯定するにも否定するにも根拠が全然足りない。 つまり、一方だけが軽視されるとする判断は確実性に欠け、「通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる」とまでは言えない。 大阪地裁の認定した事実に基づけば、「欠陥」がなければ損害も発生しないことを「高度の蓋然性」レベルで立証できず、「欠陥」がなくても損害が発生した可能性が十分にあるのだ。 これでは、「欠陥」とは無関係に損害が発生したことを否定できず、「欠陥」と損害の因果関係を立証したとは言えない。

(イ)第2要件

前記ア認定の事実によれば,亡Mは,平成14年4月9日から同年7月29日までシスプラチンとドセタキセルの併用療法により治療を受けて,部分奏功(PR)と判定されており,上記併用療法による治療中に発症した多数の副作用はいずれも重篤ではなかったが, 治療期間中からの体力の低下や今後の治療期間などを考慮して,医師から勧められた追加治療を断っているが,同年9月2日にイレッサ投与を開始するまでに,退院後も従来の抗がん剤(5FU)投与を受けていたというのである。

そうすると,亡Mは,実際に従来の化学療法による治療で奏功を得ており,従来の化学療法により治療の効果が期待できないという状況ではないといえるだけでなく,また退院後も従来の化学療法による治療を受けており, 従来の化学療法による治療が困難であるほどに全身状態が悪化していたとまではいえないのであるから,前記2(2)のとおり,適切な指示・警告がされていれば,医師は従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めることはなく,亡Mはイレッサの服用に同意することもなかったと認めるのが相当である。


(イ)第2要件

前記ア認定の事実によれば,亡Nは,平成14年7月9日からの入院中にビノレルビンとネダプラチンの併用療法,イリノテカン単剤により治療を受けて,不変(NC)~部分奏功(PR)と判定されており, 治療中には発熱が続き,閉塞性肺炎の疑いがあったものの,その他に重篤な副作用はなく,同年9月18日からイレッサの投与を開始したが,開始前には入院による従来の化学療法の実施も検討されていたというのである。

そうすると,亡Nは,実際に従来の化学療法による治療で奏功を得ており,従来の化学療法により治療の効果が期待できないという状況ではないといえるだけでなく,また従来の化学療法による治療が困難であるほどに全身状態が悪化していたとまではいえないのであるから, 前記2(2)のとおり,適切な指示・警告がされていれば,医師は従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めることはなく,亡Nはイレッサの投与を同意することもなかったと認めるのが相当である。


(イ)第2要件

前記ア認定の事実によれば,原告Lは,平成14年8月5日から同年9月10日まで放射線治療を受けて,約78%の腫瘍縮小効果が得られ,退院後の治療方針を決めるにあたって,従来の化学療法による副作用を懸念して,医師から勧められた従来の化学療法による治療を断り,同月26日からイレッサの服用を開始したというのである。

そうすると,原告Lは,放射線療法により腫瘍縮小効果を得ており,従来の化学療法による治療を受けておらず,従来の化学療法により治療の効果が期待できないという状況ではなかったといえるだけでなく,また従来の化学療法による治療が困難であるほどに全身状態が悪化していたとはいえないことが明らかであるから, 前記2(2)のとおり,適切な指示・警告がされていれば,医師は従来の化学療法よりも優先してイレッサの投与を勧めることはなく,原告Lはイレッサの投与を同意することもなかったと認めるのが相当である。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.828,835-836

亡M、亡N、原告Lのいずれにおいても、「指示・警告」の差によりイレッサを選択肢から外すような個別事情は書かれてない(そもそも、そうした個別事情があるなら「指示・警告」の差と関係なくイレッサを選択肢から外すべきとなり、医師の処方ミスが原因という結論になる)。 とくに、亡M、原告Lについては、「多数の副作用」により「体力の低下」が懸念されたり、「従来の化学療法による副作用を懸念して」治療を断った事実があるのだから、イレッサは有力な治療の選択肢の一つとなったと考えられる。 「従来の化学療法による副作用」はいわゆる血液毒性を指すのであろうから、そうした血液毒性のないイレッサを選択肢から外す理由がない。

尚、大阪地裁は当事者主義の原則を逸脱している。

第4 個別原告らとの関係における因果関係,損害について

1 因果関係について

(原告らの主張)

(1)判断枠組み

ア 薬害訴訟においては,因果関係を可視的に把握することは不可能であり,原因となる事実と疾病という結果発生との間の因果関係に関する科学的証明の困難性の程度が高い。 また,本件では,集団病理現象としての疾病が問題になっており,イレッサ投与による間質性肺炎等の発症のメカニズムは未だ十分に解明されていないものの,因果関係が存在する科学的可能性は十分に存在する。

そして,疫学的因果関係が証明された場合には,法的因果関係も肯定されると解されている(最高裁昭和44年2月6日第一小法廷判決・民集23巻1号195頁参照)。

したがって,本件においても,イレッサ投与と間質性肺炎等の発症との間に疫学的因果関係が証明された場合には,特段の事情のない限り,個々の被害者におけるイレッサ投与の事実と間質性肺炎等の発症との法的因果関係も当然,認められるというべきである。

イ 疫学的因果関係の有無の判断では,以下の5つの判断要素が考慮されるべきであり,特に①関連の時間性,②関連の強固性を中心に判断されるべきである。

①関連の時間性(問題の因子が発病の一定期間前に作用するものであるといえるか)

②関連の強固性(その因子の作用する程度が著しいほどその疾病の罹患率が高まるといえるか)

③関連の整合性(要因が疾病の原因として矛盾なく説明でき,医学的生物学的機序からの説明ができるか)

④関連の一致性(特定の集団で,要因と結果との間に関連性が認められる場合,同じ現象が時間,場所,対象者を異にする集団でも認められるか)

⑤関連の特異性(特定の要因と結果が特異的な関係にあるか)

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.270-271

原告の主張は第1要件に該当する「イレッサ投与の事実と間質性肺炎等の発症との法的因果関係」だけで、第2要件については触れていない。

通常有すべき安全性 

第二条  この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。

2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

製造物責任法

欠陥が認められるためには「その通常予見される使用形態」において「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている」ことが必要である。 では、「その通常予見される使用形態」や「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている」とは何か。 それを大阪地裁は次のように判断した。

したがって,医療用医薬品についての製造物責任法上の指示・警告上の欠陥の判断においては,製造(輸入販売)業者等は,当該医薬品の販売時点において,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報を,医療現場で当該医薬品を使用することが想定される平均的な医師等が理解できる程度に提供する必要があり,かつそれで足りるものと解するのが相当である。


したがって,イレッサについて指示・警告上の欠陥があったかの判断は,イレッサの販売時における,イレッサの副作用とされる急性肺障害・間質性肺炎等に関する医学的,薬学的知見,医療現場の医師等に対して提供されていた情報の内容,医療現場の医師等の認識等を総合考慮して行うものと解するのが相当である。


このように,被告会社は,間質性肺炎についてイレッサとの関連性が否定できない副作用として公表する必要はないと判断していたことから,前記第5の2(2)の認定事実のとおり, 被告会社が,プレスリリース,ホームページ上の記事,記者会見において,平成13年5月から平成14年7月にかけて,ZD1839(イレッサの開発コード)に関して公表した情報には間質性肺炎に関する記載はなく, ZD1839の特徴として,①従来の抗がん剤とは異なる新しいタイプの分子標的治療薬であること,②従来の肺がん治療のような重い副作用がなく,主な副作用は発疹,乾燥皮膚あるいは掻痒のような軽度から中等度の皮膚反応や下痢であり,重篤な副作用はまれで通常は病勢の進行に関連していること, ③一日一錠経口投与であることを,その特筆すべき長所として掲げるものであった。


(ウ)さらに,イレッサは,従来の抗がん剤のように医療機関において長時間の点滴を必要とするものではなく,錠剤を1日1剤経口投与するものであり,かつ,肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有する医師や,緊急時に十分に措置できる医療機関における使用が限定されたものではなかったから, イレッサの販売時においては,必ずしも肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師が処方することも想定され,かつ,緊急時に十分な措置をすることができる医療機関に限らず,患者が自宅で経口投与することが想定されていた状況にあった。


また,前記(3)イの認定・判断のとおり,平成14年7月当時,分子標的治療薬についての医療現場の医師等の理解は十分ではなく,被告会社による情報提供や医学雑誌等から情報を得るほかない状況にあったことを考えると, 上記情報提供を受けた当時の医療現場の医師等のイレッサに対する認識は,非小細胞肺がん治療でセカンドラインの奏効率が27.5%と日本人に非常によく効く新しいタイプの抗がん剤であり,従来の抗がん剤とは異なって副作用が軽微であるというものであり, 加えて患者が自宅で服用することができる経口薬であるという性質からすれば,従来の抗がん剤に比して副作用に関する警戒を十分にしないまま広く用いられる危険性があったといわざるを得ない。 そして,このような危険性は,薬事・食品衛生審議会第二部会の委員が,平成14年5月24日の審議において表明した危惧(第1の3(2)参照)に他ならないというべきである。


さらに,前記第5の1(3)及び(4)アの認定事実によれば,使用上の注意通達によれば,「副作用」の記載は,内容からみて重要と考えられる事項については,記載順序として前の方に配列することとされていたところ, イレッサの第1版添付文書において,間質性肺炎は,「重大な副作用」欄の「1)重度の下痢,脱水を伴う下痢」,「2)中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑」,「3)肝機能障害」に続けて最後に記載されていたのであるから, 間質性肺炎は,上記4つの重大な副作用の中でも,その内容からみて重要とは考えられられないものと解釈されるおそれがある記載であったということができる(なお,別紙32【海外からの副作用報告196例のうち転帰欄死亡の症例一覧】記載のとおり,下痢,中毒性表皮壊死融解症,肝機能障害は,それぞれEAPの副作用報告で死亡例が1例ずつ確認されているにとどまる。)。 また,使用上の注意通達によれば,「警告」欄の記載は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること。」とされているから, 副作用が発現することが明らかになっている場合に限らず,致死的な副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があると考えられる場合で,かつ特に注意喚起をする必要がある場合であれば足りるところ, イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎は,致死的な副作用が発現する可能性が否定できない場合であり,死亡という極めて重大な事故につながる可能性がある場合であるということができるから,警告欄に記載することについては,使用上の注意通達上支障のないものであったというべきである。


(ウ)以上によれば,被告会社は,間質性肺炎を重大な副作用欄の最後に記載するのみでは,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎の発症傾向や予後について,医療現場においてイレッサを使用することが想定される平均的な医師等の間において,危険性の認識の程度に差が生じる可能性があることを認識し得たものということができる。 そして,承認時までの副作用報告において,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎を発症し,致死的な転帰をたどる例が報告されていたとの事実及び同事実から認識すべき危険性を上記医療現場の医師等に対して正確に伝えるためには,少なくとも第1版添付文書の重大な副作用欄の最初に,間質性肺炎を記載すべきであったというべきである。 また,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎が致死的な転帰をたどる可能性があった以上,その点について警告欄に記載して注意喚起を図るべきであったというべきであるから, そのような注意喚起が図られないまま販売されたイレッサは,抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたものといわざるを得ず,平成14年7月当時のイレッサには指示・警告上の欠陥があったと認めるのが相当である。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.732,736,739,741-745

大阪地裁は「平均的な医師」の判断を根本的に誤っている。 「分子標的治療薬についての理解」が十分でない「肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師等」は、イレッサを投与してはならない。 実績の乏しい未知の新薬である以上、実績の十分な従来薬よりも、十分な知識と注意を要することは医師の間では常識である。 添付文書の重大な副作用欄に書かれてあったにもかかわらず「副作用に関する警戒を十分にしないまま広く用いられる危険性があった」とする判断は、そうした医師の常識と逆行するだけでなく、 医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。 添付文書最高裁判例 にも反している。 医療用医薬品において「通常有すべき安全性を欠いている」とは医師が当然の注意を払っても事故が起きるようなことを指すはずであり、医師の注意義務違反があって初めて生じる危険性に対してどうして「通常有すべき安全性を欠いている」と言えるのか理解に苦しむ。

大阪地裁は「医師等は医学雑誌等から情報を得ることもあるから,指示・警告上の欠陥の判断においては,添付文書の記載を中心としつつ,副次的に,医師等に対して提供された情報の内容をも考慮するのが相当」としながら、その医学雑誌に掲載された論文等を一切考慮していない。 大阪地裁は「プレスリリースやホームページ」だけを「医学雑誌等」から得られる情報と限定して、「副作用に関する警戒を十分にしないまま広く用いられる危険性があった」と結論づけている。 これは 必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務があるというべきである。 情報収集義務最高裁判例 にも反している。 医療用医薬品において「通常有すべき安全性を欠いている」とは医師が当然の注意を払っても事故が起きるようなことを指すはずであり、医師の注意義務違反があって初めて生じる危険性に対してどうして「通常有すべき安全性を欠いている」と言えるのか理解に苦しむ。

経口薬であることを理由に「副作用に関する警戒を十分にしないまま広く用いられる危険性があった」とするのは素人判断に基づいた根本的な勘違いである。 その詳細はイレッサ訴訟誤判(細部不当判決)の原因で解説する。

以上のとおり、大阪地裁は製造物責任法の「その通常予見される使用形態」の判断において致命的間違いを冒している。 さらなる詳細はイレッサ訴訟誤判(細部不当判決)の原因で解説する。

開発危険の抗弁 

製造物責任法には「開発危険の抗弁」と呼ばれる免責条項がある。

第四条  前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。

一 当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。

製造物責任法

「開発危険の抗弁」について、判例検索システムでは、地裁レベルの判断基準しか見つからない。

法4条は,製造業者等が「当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと」(同条1号)を証明したときは,法3条の製造物責任を負わない旨を規定している(いわゆる開発危険の抗弁)。 この規定の立法趣旨とするところは,製造業者が科学技術に関する知見を如何に駆使しても当該製造物に存在する欠陥をおよそ認識することができない場合には,そのような欠陥による損害の発生も賠償すべき責任の限度も全く予測できないにもかかわらず, なお製造業者が製造物責任を負担しなければならないとすると,製造業者においてこのような負担を恐れて新製品の開発意欲が失われ,研究開発や技術革新が停滞し,ひいては産業活力が損なわれて国民経済の健全な発展が阻害されると考えられたため,政策的配慮から,このような事態を回避しようとしたことにあると解される。 他方,この開発危険の抗弁が安易に認められると,被害者救済を目的とする製造物責任制度を導入した意義が失われることは明らかであって,上記のような政策的配慮を背景とする開発危険の抗弁の立法趣旨に鑑みれば,その適用範囲は限定的に解するのが相当である。 加えて,法には,不法行為における「加害者の過失」という主観的な要件を排し,物の客観的性状である「製造物の欠陥」を要件とすることで,主観的な要素である「加害者の過失」の判断に必然的に伴うばらつきを解消し, 製品事故における損害賠償責任の法的安定性を確保する意義もあると解されるから,この観点からすると,上記「科学又は技術に関する知見」の基準を加害者の知見に求めるのは相当でない。 以上を踏まえて法の規定を解釈すれば,法4条1号にいう「科学又は技術に関する知見」とは,科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて,当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識のすべてをいい, それは,特定の者が有するものではなく客観的に社会に存在する知識の総体を指すものであって,当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされるものと解するのが相当である。 そして,製造業者等は,このような最高水準の知識をもってしても,なお当該製造物の欠陥を認識することができなかったことを証明して,初めて免責されるものと解するのが相当である。

平成13(ワ)12677 損害賠償請求 平成14年12月13日 東京地方裁判所


'''製造物責任法4条1号は,製造業者等が「当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと」を証明したときは,損害賠償の責めに任じない旨規定するところ, 同号にいう「科学又は技術に関する知見」とは,当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において,科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて,当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識の全てをいうものと解するのが相当である。'''

平成16(ワ)3089 損害賠償請求事件 平成19年11月30日 名古屋地方裁判所

いずれの判例においても、「当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされるものと解するのが相当」としている。 そして、詳細に読むと、一例でも危険性を示す情報が入手可能であり、かつ、その製品と危険性の因果関係を否定する根拠がないならば、「入手可能な世界最高の科学技術の水準」においては欠陥の認識可能性があることになる。 このような判例があったからこそ、大阪地裁は次のような判断をくだした。

(4)第1版添付文書における指示・警告上の欠陥について

ア第1版添付文書における指示・警告上の欠陥について

(ア)前記第5の4(2)イの認定事実によれば,イレッサの国内外での臨床試験やEAPによる副作用報告において認められた間質性肺炎は,イレッサとの関連性が否定できなかったこと,また,間質性肺炎は,他の抗がん剤でもみられる副作用であり, いったん発症したときは死亡に至ることのある疾患であることが知られていたこと等からすれば,申請資料及びその後の副作用報告等から,平成14年7月当時,イレッサによる間質性肺炎に関し, イレッサにより症例によっては死に至ることがあり得る間質性肺炎を発症する可能性は否定できず,少なくとも既存の抗がん剤と同程度の間質性肺炎が発症する可能性はあるということが判明していたということができる。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.742

本当に「当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準」で知り得た対策を怠ったならば「開発危険の抗弁」は認められない。 では、製薬会社は本当に「当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準」で知り得た対策を怠ったのか。 イレッサ訴訟誤判(細部不当判決)の原因にて詳細な判決文を解説するが、ここでは結論だけを述べる。 大阪地裁は、「開発危険の抗弁」においても致命的な誤審を犯している。 しかも、根拠の乏しい論理の飛躍で間違った結論を導いているのである。

まとめ 

裁判所の判断は次のとおり。

  • しかし、「死亡を含む重篤な副作用が発症する危険が具体化することを,高度の蓋然性をもって認識すること」までには至らなかった。
  • イレッサ使用が想定される「平均的な医師」は「副作用に関する警戒を十分にしない」可能性があった。
  • ただし、当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準であれば、その可能性を認識できた。

これらの判断は最初の1つを除いて明らかな誤診である。 大阪地裁は、これらに基づいて、次のように責任を認定した。

  • 高度な蓋然性をもって認識できなかったので、国には国家賠償法上の責任を問えない。
  • (世界最高の科学技術の水準では)欠陥を認識可能だったので、(「開発危険の抗弁」に関する東京地裁判例により、)製薬会社には製造物責任法上の責任がある。

製造会社の責任認定は初歩的な誤審であるが、それと判断が分かれた原因は別問題である。 判断が分かれたのは、国家賠償法と製造物責任法の責任の認定範囲が違うからに過ぎない。 もちろん、大阪地裁が「欠陥」と損害の間の因果関係や「通常有すべき安全性」や開発危険の抗弁について初歩的かつ致命的な判断ミスをしたことは言うまでもない。 3つの最高裁判例や医学的事実に基づいた判断であれば、製薬会社の責任も完全に否定されただろう。 原告は「国は首の皮一枚で責任を免れた」と主張するが、実際には、首の皮一枚分の判断の誤りで製薬会社の責任が認められたにすぎない。 というより、原告を救済しようとする気持ちが強すぎて、こうした誤審を引き起こしたと考えることも出来る。 東京地裁には、このような初歩的かつ致命的な誤審をしないように願う。

この判決を受けて「国が責任を負わずに製薬会社だけに責任を負わせるのはおかしい」と怒るのは見当違いである。 この判決は、薬事承認を責任を製薬会社に一方的に負わせたわけではない。 判断が分かれた原因は、消費者保護を理由として、製造物責任法における製造業者の責任範囲が広めにとられているからである。 だから、判断が分かれたことは、製造物責任法の問題であって、薬事承認とは別の問題である。 そして、「欠陥」と損害の間の因果関係や「通常有すべき安全性」や開発危険の抗弁についての誤審がなければ、製造業者の責任が認められることはなかった。 この判決の問題は次の2点だけである。

  • 「欠陥」と損害の間の因果関係および製造物責任法の「通常有すべき安全性」や開発危険の抗弁についての誤審
  • 薬事承認に限らず国が製造業者の監督責任を負うべき場合の国家賠償法と製造物責任法のバランスについての立法的議論

本判決と薬事承認の責任を何処に問うべきかは全く違う問題である。

原告の詭弁 

http://www.jiji.com/news/kiji_photos/20110225at50b.jpg

堂々と「勝訴」と掲げておいて 極めて不当な判決 イレッサ判決受け、薬事法改正を検討へ - キャリアブレイン なんて二枚舌は止めてもらいたい。

他方,判決は国の法的な責任を否定したが,アストラゼネカ社の責任で判断された事実関係は,ほとんどそのまま国にも当てはまるのであり,国の責任を否定したことは極めて不当である。指示・警告上の欠陥がある医薬品であるとされながら,これを指導監督する国に責任がないというのでは,国民の薬事行政に対する信頼を確保することはできない。

薬害イレッサ大阪判決に対する原告・弁護団声明 - 薬害イレッサ弁護団

「当時の医学的知見からは一応の合理性が認められる」としているのだから「国に責任がない」と結論づけるのは当然である。 原告は決して「国の責任で判断された事実関係は,ほとんどそのまま製薬会社にも当てはまる」とは考えない。 というのも、彼らは分かっていて詭弁を弄しているからである。 ここで掲載した判決要旨はイレッサ弁護団のサイトで掲載されているものである。 だから、「厚生労働大臣が行う添付文書の記載に関する行政指導については,製造物責任法上の指示・警告上の欠陥の判断方法とは異なり,添付文書の記載と薬事法令及び通達との適合性のみを判断する方法を採るべきであるとの考え方もあった」も当然読んでいるはずである。 そして、法律の専門家である弁護士ならば、製造物責任法上の責任範囲と国家賠償法上の責任範囲の違いも当然知っているはずである。 つまり、イレッサ弁護団は、国と製薬会社の責任判断が分かれた理由を知っており、製薬会社の責任を認める事情が「ほとんどそのまま国にも当てはまる」ことはないと知っているのである。

偏向報道 

判決は、副作用の危険を知らせる「緊急安全性情報」が出た02年10月15日以降は、ア社の責任を認めなかった。 兵庫県内の原告の女性(48)の夫は、まさにこの日、イレッサの服用を決めた。 副作用情報は知らないままで、約1カ月後に48歳で急死したが、賠償の対象からは外れた。 女性は「緊急安全性情報が出たら、その日中に全国に行き渡るというのは非現実的」とコメントの形で発表した。

イレッサ副作用死:投薬訴訟 大阪地裁判決 原告、国の賠償棄却を批判 - 毎日新聞

大阪地裁判決は、製造物責任法に基づいて添付文書の記載方法を製品の「欠陥」と認定したに過ぎない。 だから、製品の「欠陥」が改善されたなら、その改善された製品には製造物責任が認められないのである。 そのことと「緊急安全性情報が出たら、その日中に全国に行き渡る」かどうかは全く関係がない。 このコメントを発表したのは素人だから勘違いするのは仕方ないが、補足説明もせずにそのまま掲載するのは、意図的に誤解を誘導していると思われても仕方ないだろう。

原告弁護団の一人は「判決でも国の責任が認められるのではと期待したが、国家賠償法上、違法だったというほどの問題はないという判断だ。 クロロキン薬害訴訟の最高裁判決を覆すことはできなかった」と話す。

95年6月のクロロキン薬害訴訟の最高裁判決は、「被害が生じてもただちに国家賠償法上の違法性は生じず、許容限度を超えて著しく合理性を欠く場合に違法性がある」との基準を示し、国の責任を否定。これが薬害訴訟での国家賠償の判例で、今回の判決もそれに沿ったものだった。

クローズアップ2011:イレッサ大阪訴訟 薬害責任、割れた結論 - 毎日新聞

この裁判の根拠となる条文は次のとおり。

第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

国家賠償法

これにより国の賠償責任を認めるには公務員の「故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」に限られる。 そして、過失と損害の因果関係の立証は 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。 東大病院ルンバール事件最高裁判例 とされている。 クロロキン薬害訴訟は、それら法令や判例を踏まえて、それら法令や判例に沿った判決を下しただけに過ぎない。 つまり、「薬害訴訟での国家賠償の判例」とは、法令と従来の判例を踏襲したものでしかなく、「早見表」(裁判官が法令や判例を複数組み合わせて一から判断する…という手間が省ける)程度の意味しか持たない。 決して、「薬害訴訟での国家賠償の判例」によって、特別に国が責任を免れるように保護されているわけではないのだ。

このコメントを発表したのは原告であるから詭弁を弄しているのだろうが、補足説明もせずにそのまま掲載するのは、意図的に誤解を誘導していると思われても仕方ないだろう。

肺がん治療薬イレッサの副作用で死亡した患者の遺族らが起こした損害賠償請求訴訟で、大阪地裁は販売元のアストラゼネカ社の責任を認め計6050万円の損害賠償を支払うよう命じた。 どんなに画期的な薬でも、きちんと副作用情報を伝えなければならず、そのために多数の犠牲者を出した責任は取らなければならない、と判決は明確に示した。

イレッサの添付文書には間質性肺炎という重大な副作用が記載されてはいたが、一番後ろの目立たない場所だった。 それが十分な情報提供と言えるのかどうかが訴訟の焦点の一つだった。 判決は「添付文書の重大な副作用欄の最初に間質性肺炎を記載すべきであり、そのような注意喚起が図られないまま販売されたイレッサは抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたと言わざるを得ない」と指摘。 同社に対して製造物責任法上の指示・警告上の欠陥があったことを認めた。

社説:イレッサ判決 国に責任はないのか - 毎日新聞

判決文を読まないのはどこの新聞社でもそうなのか? 判決文を熟読して裁判所の判断を検証するのがマスコミの責務ではないのか。 そうしたことをせずに、想像で物を言うようなマスコミは不要である。

大阪地裁は、決して、「どんなに画期的な薬でも、きちんと副作用情報を伝えなければならず、そのために多数の犠牲者を出した責任は取らなければならない」という判断を下していない。 単に、製造物責任法では製造販売業者にそこまでの責任を求めているという判断をしただけである。

「通常有すべき安全性」は文字通りの意味ではなく、製造物責任法の文言である。 同法で「通常有すべき安全性」とは、「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮」した「当該製造物が通常有すべき安全性」のことである。 そうした法律用語を特段の説明もなく引用しては、故意に誤解を誘ったと疑われても仕方ないだろう。

そして、この裁判において争点となるのは次の2点である。

  • 「通常有すべき安全性」における「通常予見される使用形態」の範囲
  • 同法第四条第一号の開発危険の抗弁が成り立つかどうか

この判決で新たな判断を下したのは前者であって、後者は従来の判例に従ったに過ぎない。 驚くべきことに、大阪地裁は、最高裁判例で示された医師の義務に従わない馬鹿医師が使うことも「通常予見される使用形態」だとしたのである。 その程度の指摘もできないマスコミは不要だ。

しかし、判決に先立って裁判所が出した和解所見では国の救済責任について認めていた。 判決でも国の行った行政指導が「必ずしも万全な規制権限の行使であったとは言い難い」とも指摘している。 国家賠償法の違法性を認めるまでには至らないが、国の行政指導に問題があったことを認めたと読み取るべきだろう。

社説:イレッサ判決 国に責任はないのか - 毎日新聞

中立的な立場に立てば、「必ずしも万全な規制権限の行使であったとは言い難い」の意味は様々である。 最大限、国寄りに解釈すれば、当時の知見では必要な義務は果たしたがもっと頑張った方が良かった、という解釈も成り立つ。 「国の行政指導に問題があったことを認めた」は、国の責任に仕立て上げたい人の解釈に過ぎない。 そのような極端に偏った立場の解釈だけを一方的に掲載するならば「新聞」を名乗るのは止め「プロパガンダ誌」を名乗るべきだろう。

権限の不行使は「著しく合理性を欠く場合」にのみ違法になるとする最高裁判例に、国は救われた格好だ。 判決は、製薬会社と国には、新薬の副作用情報を十分かつ理解しやすく処方医、患者に伝える責務があると指摘したといえる。 ()

イレッサ判決が求めるもの - 日本経済新聞

法令に対する理解も乏しく、かつ、判決も読まずに物を言うのは、日本経済新聞の伝統的なお家芸である。 新聞を名乗っておいて、三流ゴシップ誌以下の記事を書くことが恥ずかしくないのかと思う。

前述のとおり、「薬害訴訟での国家賠償の判例」は、法令と従来の判例を踏襲したものであって、それによって特別に国が責任を免れるように保護されているわけではない。 そもそも、特定の判例の内容がおかしいと主張するなら、判例のどの部分がどんな根拠に基づいておかしいのか説明すれば良い。 そうした説明すら出来ないくせに、いったい、何が「国は救われた格好」なのか。

判決を読んでいれば、大阪地裁が「高度の蓋然性をもって認識することはできなかった」と判断したことは簡単に分かる。 その判断に疑問を呈するなら分かるが、その判断から国に責任はないとする帰結には疑問の余地はない。 「高度の蓋然性をもって認識することはできなかった」はその最高裁判例とは無関係な判断であるし、その判断に基づけば最高裁判例がなくても国の責任は否定される。 よって、判決を読んでいれば、「最高裁判例に、国は救われた格好」なんてことは絶対に言えない。

イレッサは「夢の新薬」と承認前に報道され、使いやすい錠剤でもあるため、最初の3カ月で約7千人が服用し問題を大きくした。 抗がん剤の専門知識に乏しい医師が処方した例もあったとされる。 医師の不勉強があったのなら、それは問題だ。

イレッサ判決が求めるもの - 日本経済新聞

他の新聞が触れない「抗がん剤の専門知識に乏しい医師が処方した例」に言及したことだけは珍しく評価できる。 しかし、それ以上深くつっこまない所は如何にも日本経済新聞らしい。 そこまで書いたら、普通は、そうした馬鹿医師の実態を調査して医師に対する規制を強化すべきだ等まで言うだろう。

判決は、肺炎の副作用を冒頭の警告欄に記載しなかった初版文書を違法とし、企業に賠償を命じた。 行政指導をしなかった国の対応も万全でないとしたが、法的責任は認めなかった。 不作為の認定要件を「著しく合理性を欠く場合」とした、薬害クロロキン最高裁判例(平成7年)のハードルに国が救われた形だ。

【イレッサ訴訟】薬事行政に自戒促す - MSN産経ニュース

産経まで、こうした偏向報道に手を染めるとは、正直、ガッカリである。 前述のとおり、「薬害訴訟での国家賠償の判例」は、法令と従来の判例を踏襲したものであって、それによって特別に国が責任を免れるように保護されているわけではない。 そもそも、特定の判例の内容がおかしいと主張するなら、判例のどの部分がどんな根拠に基づいておかしいのか説明すれば良い。 そうした説明すら出来ないくせに、いったい、何が「国は救われた格好」なのか。

添付文書の記載は、抗がん剤との併用で14人が死亡した抗ウイルス剤・ソリブジンでも問題に。 「併用を避ける」という注意喚起が副作用に記載されず、被害拡大を招いたとされ、旧厚生省が「致死的な副作用は警告欄に」と通知した。 こうした過去の教訓がイレッサでは生かされなかった。

【イレッサ訴訟】薬事行政に自戒促す - MSN産経ニュース

この記事にも書いてあるように、ソリブジン薬害は併用による相互作用の問題であって、イレッサのような単剤の副作用とは根本的に違う。 詳細はイレッサ訴訟誤判(細部不当判決)の原因にて解説する。

製薬会社の判断ミス 

大阪地裁判決でも認定されているが、この事件において、製薬会社が副作用(の可能性のある症例の)情報の開示に消極的であったのは事実だろう。 確かに、製薬会社が副作用(の可能性のある症例の)情報の開示に積極的であれば、副作用被害を少なく出来た可能性はある。 しかし、そのことと法的責任の有無は別問題である。

本来、製薬会社は、法的責任を問われなくても、患者の利益になることについては積極的であるべきだ。 そして、そうした姿勢が会社としての信用になるのであり、信用と逆行する行為は長い目で見れば会社にとって不利益しかもたらさない。 これは、製薬会社に限ったことではなく、全ての会社に言えることである。 多くの会社が、知って欲しいことは積極的に開示する一方で、知られたくないことの開示には慎重になる。 しかし、会社の信用を大事にするならば、逆の行動こそが望ましい。 知られたくない情報であっても、それが真実であるならば、最終的には公開するしかない。 公表が遅れれば、それが隠蔽工作と疑われて大きな不利益になりかねない。 一方で、それが間違った情報であるならば、急いで公表しても、間違いと分かった時点で笑い話にできる。 知って欲しい情報を公表した後に、それが間違いだと分かれば、印象操作だと疑われるだろう。 一方で、知って欲しい情報の公表が遅れても、不利益は公表までの一時的なものに留まる。

製薬会社に限らず、そのことが分かってない企業が多すぎる。

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