製造物責任法とは?

立法趣旨 

民法の壁 

民法の損害賠償は非常にハードルが高い。 過失の存在と、過失と損害の因果関係について賠償請求する側に立証責任があるため、過失責任の有無が明確でないグレーゾーンの場合は、請求が棄却されてしまう。

製造物責任法 

製造物責任法は、消費者保護を理由として、グレーゾーン部分を大幅に消費者寄りに解釈することができる法律である。 製造物責任法では、製品の「欠陥」があれば過失の存在の立証は必要ないとされる。 そして、「欠陥」の具体的な事例は法律に規定せずに、裁判所の判断に委ねている。 そのため、わずかな誤審で、言い掛かりまがいのクレームが認められる危険性がある。 「猫を電子レンジで乾燥させようとして死亡させた米国の主婦が製造業者を訴えて勝訴した」とする都市伝説がある。 元の話を誰が考えたのかは知らないが、製造物責任法の危うさを指摘する喩え話としては、的を射ている。 この言い掛かりまがいのクレームが認められることは、決して、笑い話ではなく、実際に起こりうることなのだ。

しかし、製造物責任法では、企業を言い掛かりまがいのクレームから守ることよりも消費者を欠陥商品から守ることの方を優先した。 法律の根底には、消費者は過保護なまでに守られるべき社会的弱者であり、多少の言い掛かりのリスクを背負うのは企業として当然の社会的責任との考えがある。 だから、製造物責任法は、製造業者に厳しく、かつ、消費者に優しいのである。 そのため、製造物責任法では、民法の損害賠償請求よりも消費者に有利な判決が出やすい。 以上のとおり、製造物責任が認められても、それは、製造業者の過失責任が認められたことを意味しない。

製造物責任の範囲 

第二条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。
製造物責任法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H06/H06HO085.html)

動産については この法律において「物」とは、有体物をいう。 不動産以外の物は、すべて動産とする。 民法第八十五条、第八十六条第二項 と定義されている。

第三条  製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。
製造物責任法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H06/H06HO085.html)


本稿での逐条解説においては、国生審報告における検討及び衆参両議院商工委員会における審議を立法過程における意見として中心に取り上げているが、これらの意見が製造物責任法の解釈において裁判所の判断を拘束するものではないことは論をまたない。
製造物責任法の逐条解説-北川俊光(https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/2022/4/KJ00000726911-00001.pdf)


ここでの製造、加工、輸入の対象物は“製造物”であり、その完成品、部品・コンポーネント、素材、原材料等全てを含む。 ある完成品である製造物の欠陥がその製造物を構成する部品、原材料に起因している場合には、部品、原材料の製造業者等と完成品の製造物の製造業者は不真正連帯債務を負うと考えられている。
製造物責任法の逐条解説-北川俊光(https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/2022/4/KJ00000726911-00001.pdf)

製造物責任法では、損害賠償の対象は直接的な消費者に限定されない「他人の生命、身体又は財産を侵害したとき」である。 ちなみに、「不真正連帯債務を負う」のは、原材料の製造業者等と完成品の製造物の製造業者の行為が民法第719条共同不法行為と見なされるからである。

たとえば、散髪屋で髭剃りをしてもらっているときに、剃刀の欠陥により怪我を負ったような場合にも、被害者は、剃刀の製造業者に対して製造物責任を問うことができる。 ただし、散髪屋が提供するサービスは動産ではないので「製造物」に該当せず、散髪屋に対しては、製造物責任を問うことはできず、民法上の損害賠償請求しかできない。 この場合、散髪屋と剃刀の製造業者は不真正連帯債務を負うので、被害者は剃刀の製造業者だけを訴える選択も可能である。 その場合は、剃刀の製造業者が両者の共同不法行為による損害賠償を全額負担しなければならない。 さらに、剃刀の製造業者の製造物責任が認められた場合、剃刀の製造業者は、散髪屋に対して、求償権を行使することが出来る。 たとえば、散髪屋の剃刀の使い方にも問題があった場合は、散髪屋も不法行為の度合いに応じた負担割合で賠償金を負担しなければならない。

イレッサ訴訟の事例では、散髪屋を医師に、剃刀の製造業者を製薬会社に、それぞれ、置き換えれば良い。 医療用医薬品の投与による副作用死の場合は、国と医師と製薬会社の三者による共同不法行為とみなされる。 共同不法行為では不法行為者は不真正連帯債務を負うので、損害賠償だけが目的ならば、遺族は、全て、または、いずれか二者、あるいは、いずれか一者を訴えれば良い。 損害賠償だけが目的ならば、法的責任が認められる可能性が高い相手を選んで裁判を起こせば良い。 この場合、次の判例等により、自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは他の不法行為者にその不法行為者の負担部分を求償することができるとされている。

甲と乙が共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、甲が乙との責任割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、甲は、乙の負担部分について求償することができる(最高裁昭和六〇年(オ)第一一四五号同六三年七月一日第二小法廷判決・民集四二巻六号四五一頁、最高裁昭和六三年(オ)第一三八三号、平成三年(オ)第一三七七号同年一〇月二五日第二小法廷判決・民集四五巻七号一一七三頁参照)。
平成9(オ)448損害賠償事件の最高裁判決(平成10年09月10日)(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121206324041.pdf)

尚、損害賠償が主目的ではなく、真実を明らかにすることが主目的である場合は、全員を訴える必要がある。 何故ならば、一部のみを選択して裁判を起こしても、不法行為者間の過失割合が明らかにならないからである。 そして、訴えが通った場合には、全員分の賠償金を得ることができるため、別の不法行為者に対して損害賠償請求ができなくなる。 だから、別の不法行為者を訴えることができるのは、敗訴した不法行為者が他の不法行為者に求償裁判を起こすときだけである。 そして、敗訴した不法行為者が求償を断念してしまえば、真実が闇に葬り去られてしまうのだ。 つまり、不法行為者全員を訴えないと、真実が闇に葬り去られる危険性がある

ただし、製造物責任法上の製造物責任を問えるのは、製薬会社に対してだけである。 国と医師には、製造物責任法上の製造物責任を問えない。

国の規制との関係 

(10)「国の安全基準に適合している製造物の欠陥の責任は誰が負うのか、国の責任は」
欠陥製品事故の発生において,当該製造物が法令の定める安全基準に適合しているという事実は、当該製造業者等の責任を免責するものではない。 「国の安全基準は製品の最低の基準を定めたものにすぎない。 従って,国の安全基準に適合している製造物の欠陥の責任は当該製造事業者等の責任となる。 この製造物責任は、国の安全規制と国の賠償責任、国家賠償というものとはリンクしないと考えるべきである。 安全基準の不備あるいは事故の原因である欠陥の発生の間に因果関係があるとか、あるいはそのことについて国家賠償法第一条にある公権力の行使に当たる公務員の故意又は過失が認められるというような場合は、製造業者等の製造物責任の有無にかかわらず、国が国家賠償法に基づく国家賠償責任を負うと考える。」(通商産業大臣官房商務流通審議官の発言)
製造物責任法の逐条解説-北川俊光(https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/2022/4/KJ00000726911-00001.pdf)

このように、立法当初から、製造物責任と国家賠償責任は別物とされている。 つまり、それぞれの法律に従って判断しろということである。 よって、国の国家賠償責任が認められて、かつ、製造業者が免責される場合もある。 また、国の免責されて、かつ、製造業者の製造物責任が認められる場合もある。

「欠陥」と損害の間の因果関係 

製造物責任法では、製造業者の責任が広く取られるが、原告側の立証責任が免除されるわけではない。 「従って、本法において被害者、原告側が(a)欠陥の存在(b)損害の存在(c)欠陥と損害の因果関係の存在について証明しなければならない。」(通商産業省消費経済課の見解) 製造物責任法の逐条解説-北川俊光 としているように、製造物責任法でも「欠陥」と損害の間の因果関係は被害者側が立証しなければならない。 この点は、大阪地裁も、逐条解説と同じ判断をしている。

製造物責任法は,これを超えて更に被害者の立証責任を転換したものと解することはできない。 したがって,事実上の事実推定において,製造物責任法の立法経緯や同法の趣旨が踏まえられるぺきであるが,製造物に欠陥が存在すること及び製造物の欠陥により損害が発生したことについての主張立証責任は,原告らが負うものと解する。(V-89)
大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/2011/02/26/data/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%E4%BA%94%E5%88%86%E5%86%8A.pdf)

訴訟上の因果関係の立証については、 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。 東大病院ルンバール事件最高裁判例 と判示されており、「高度の蓋然性」として「通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる」ことが要求される。 イレッサ“薬害”について、「欠陥」と損害の間の因果関係について考えるには、まず、どのような「欠陥」が認められるかを前提に考える必要がある。

  • イレッサの有用性が否定される場合(イレッサが無益で有害と認められた場合)
  • イレッサの有用性は肯定されるが「指示・警告上の欠陥」があるとされる場合

前者の場合は、イレッサ投与と副作用発症または死亡との因果関係を立証すれば事足りる。 しかし、後者の場合は、それだけでは立証に足りない。 何故ならば、「指示・警告上の欠陥」がなければ損害が発生しないことを立証していないからだ。 「指示・警告上の欠陥」がなくても損害が発生するなら、その損害はその「指示・警告上の欠陥」とは無関係に発生していると考えられる。 よって、次の2点を立証しなければならない。

  • 「指示・警告上の欠陥」があって損害も発生した
  • 「指示・警告上の欠陥」がなければ損害も発生しないと予想される

しかし、後者を立証することは極めて困難だろう。

「通常有すべき安全性」 

第二条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。
2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
製造物責任法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H06/H06HO085.html)


(5)「通常予見される使用形態とは何か」
通常予見される使用形態という概念の中には、「製造物の合理的に予見される使用」、「製造物の使用者による損害防止の可能性」等が挙げられる。 従って、「折り畳みナイフを罐切りとして使用している際に柄が折れて手を切ったとしても、ナイフの通常予見される用途を逸脱しているために、欠陥責任を問えないことになる」。 この例示は、使用者(被疑者)の「誤用(misuse)の法理論」「危険の引き受け(assumption of risk)の法理論」の適用となるのであろう。
製造物責任法の逐条解説-北川俊光(https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/2022/4/KJ00000726911-00001.pdf)

本来、イレッサは実績の乏しい全く新しいタイプの医薬品であるのだから、「医療現場においてイレッサを使用することが想定される平均的な医師等」は「肺がん化学療法についての十分な知践と経験を有する」医師であるべきである。 よって、「必ずしも肺がん化学療法についての十分な知践と経験を有するとは限らない医師等が理解することができる程度に提供 (指示 ・警告)される必要」は何処にもない。 2つの最高裁判例 医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべき 平成4(オ)251損害賠償平成8年01月23日最高裁判所判例 その最新の添付文書を確認し,必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務がある 平成12(受)1556損害賠償請求事件平成14年11月08日最高裁判所判例 によれば、医薬品を使う医師は合理的理由がない限り添付文書に従い、必要に応じて文献を参照するなど最新情報を収集する義務があるのだから、その義務に従うことが「通常予見される使用形態」であろう。 原告の提示した裁判資料によれば、医師は、添付文書の重大な副作用欄を軽視して、重大な副作用を患者に説明せず、副作用対策の準備も怠り、実際に副作用が出た後も症状と添付文書の比較もせず、ただ、黙って死ぬまでの経過を見ているだけだったと言う。 医師としての当然の義務を果たせないなら、そのような医師は、副作用のある医薬品を使うべきではない。 本来、使うべきではない事例であるならば、逐条解説の折り畳みナイフを罐切りとして使用した例と同じく「通常予見される用途を逸脱している」のではないだろうか。

開発危険の抗弁 

製造物責任法には次のような免責条項がある。

第四条  前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
一 当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
製造物責任法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H06/H06HO085.html)

ここで言う「科学又は技術に関する知見」は 当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされるものと解するのが相当 平成13(ワ)12677 損害賠償請求 平成14年12月13日 東京地方裁判所 とされている。

大阪地裁が認定した「当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準」は次のとおり。

  • 4つの重大な副作用はいずれも致死的であると認めており、その中で間質性肺炎が最も重篤であるかどうかは全く検証されていない。
  • 承認当時の間質性肺炎の発生頻度は不明と認めており、4つの重大な副作用の中で間質性肺炎が最も発生頻度が高いとは言えない。

以上のことからすれば、4つの重大な副作用のいずれも、間質性肺炎と同等以上の記載が必要であることは明らかである。 よって、「当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準」に照らして、記載順が4番目であることに不合理な点はない。 だから、「重大な副作用欄の最初に,間質性肺炎を記載すべきであったというべき」とは言えず、少なくとも、記載順については開発危険の抗弁が認められるはずである。

尚、2002年頃の報道によれば、製薬会社は副作用死の情報を報告期限より早く掴んでいたが、報告期限ギリギリまで遅らせて報告したとされる。 それが、事実であれば、報告義務違反には当たらないが、開発危険の抗弁を限定する根拠にはなる。 製薬会社が一定数以上の副作用死の情報を得た時には、報告して国の指導を仰ぐ前に、独自に添付文書の改訂ができたはずである。 つまり、「当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準」において、添付文書の改訂が必要と知り得たと言える。 よって、国が緊急安全性情報を指示する元になる副作用死の人数分の情報を製薬会社が得た時点から、その情報に基づいて添付文書を改訂するまでの間は、開発危険の抗弁は認められないと考えるべきだろう。 ただし、かなり期間が限られるため、製造物責任が認められたとしても、極めて限定的であろう。

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