開発危険の抗弁

最初に 

このページはイレッサ訴訟誤判(細部不当判決)の原因が長くなったため、その一部を分割したものである。

開発危険の抗弁 

さらに,前記第5の1(3)及び(4)アの認定基準によれぱ,使用上の注意通達によれば,「副作用」の記載は。内容からみて重要と考えられる事項については,記載順序として前の方に配列することとされていたところ,イレッサの第1版添付文書において,間質性肺炎は,「重大な副作用」欄の「1)重度の下痢,脱水を伴う下痢」,「2)中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑」,「3)肝機能障害」に続けて最後に記載されていたのであるから,間質性肺炎は,上記4つの重大な副作用の中でも,その内容から見て重要とは考えられないものと解釈されるおそれのある記載であったということができる。(V-114)
大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/2011/02/26/data/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%E4%BA%94%E5%88%86%E5%86%8A.pdf)

下痢、中毒性表皮壊死融解症、肝機能障害よりも間質性肺炎を優先すべきとする根拠が何処にも書かれていない。 重大な副作用欄に書かれた「上記4つの重大な副作用」はいずれも致死的な副作用である。 1番目に書かなければ「その内容から見て重要とは考えられないものと解釈されるおそれ」があるならば、致死的な副作用は全て1番目に書かなければならない。 しかし、4つある致死的な副作用を全て1番目に書くことは物理的に不可能である。 どれかを1番目に書けば、残り3つは2番目以降にしか書きようがない。 このように、不可能なことを求めて、それが達成されないと「指示・警告上の欠陥」とするのは、明らかにおかしい。

判決文にも それぞれEAPの副作用報告で死亡例が1例ずつ確認されている(V-114) 大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団 と書かれているが、それぞれの致死性の程度の比較はない。 素人は「下痢」と聞いても死に至る症状だとは思わないから、「下痢」より後に致死的な間質性肺炎が書かれているのはおかしいと言う。 しかし、そう言う素人は、それらが全て「重大な副作用」欄に書いてあることを見逃している。 致死的でないちょっと我慢すれば済むような症状ならば「重大な副作用」欄には書かない。 事実、下痢は発展途上国の主な死因の一つであり、病原性の下痢や薬剤性の下痢は命に関わる。 素人がよく知る下痢と病原性や薬剤性の下痢では重篤さが全然違うのである。 とくに、通院で使われる薬の場合は、自宅で下痢症状が出れば脱水症状や栄養不足で致死的な状況になりやすい。 このように「重大な副作用」欄に書いてある症状は全て致死的なのである。 致死性の点ではどの症状も甲乙つけがたいのであり、後に書いてあるから致死的でないということにはならない。 これは、医師なら当然知っているべきことだろう。

致死性の程度に差がないなら、発生頻度の差で書いていると認識可能である。 当時の発生頻度について、判決文には次のように書かれている。

イ 安全性(危険性)
前記第5章第3のとおり,平成14年7月当時におけるイレッサの安全性(危険性)に関する判断の要点は以下のとおりである(第5章第3の5参照) 。
(ア)イレッサの作用機序や毒性試験から,間質性肺炎の発生が予測できたとはいえない。
(イ)国内3症例をはじめ治験や参考試験においては,イレッサの承認用量での間質性肺炎に関する副作用例がなく,イレッサを承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症するという明確な根拠はなかったが,同時に,間質性肺炎が発症する可能性も否定できなかった。また,海外の副作用報告によると,間質性肺炎等に閏する海外の副作用報告のうち承認用量での間質性肺炎発症例が半数ほどあり,投与量不明なものも少なからず存在した。
したがって,承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症する可能性があると判断すべき根拠はあった。
(ウ)海外の副作用報告からは、イレッサによる間質性肺炎等の発症頻度を的確に把渥することは困難であり,国内臨床試験における発症頻度釣2.3%は,従来の抗がんと比較して,特に高いとはいえなかった。
(エ)一般的に,薬剤性間質性肺炎,特に抗がん剤による薬剤性肺炎においては,多くは投与の中止又はステロイド薬により改善するが,時には死に至ることがありえ,同内3症例は,がんの進行によりイレッサによる間質性肺炎と死亡との間の因果関係が否定されるものやイレッサによる間質性肺炎か軽快したものなどであったから,国内3症例からは,イレッサにより発症しうる間質性肺炎が,従来の抗がん剤に比べて,致死的ないし重篤なものであったとまで判断することはできなかった。
また,海外の副作用報告からは,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難であったといわざるをえず,より慎重に評価を加えたとしても,イレッサによる間質性肺炎によって死に至ることがあるが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度は,従来の殺細胞性杭がん剤と同程度とみるのが相当であった。
国内外の副作用報告を総合すると,イレッサによって発症しうる間質性肺炎は,死に至ることがありうるが,従来の抗がん剤と比べて致死的ないし重篤なものであったとはいえないと評価することが相当であった。
(オ)国内外の副作用報告のいずれにおいても,イレッサの投与開始からの間質性肺炎の発症時期や症状経過,ステロイド療法への反応性などは様々であったといえるから,イレッサの副作用による間質性肺炎が急性間質性肺炎の特徴を有するものであるなどの特徹を把握することまでは困難であった。
(カ)イレッサの副作用のうち,最も多くみられるものは発疹(皮疹,湿疼)であり,比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐などであり,発疹の副作用グレードは高いとはいえず,従来の殺細胞性抗がん剤と比較して,嘔気(悪心) や嘔吐は,発症頻度が低く,症状の程度も軽度であり,下痢も,致命的となるおそれは小さく,発症頻度も低かった。イレッサには,従来の殺細胞性抗がん剤では高頻度で発症し,死に至る危険のある血液毒性による副作用はほとんどみられなかった。(V-5〜6)
大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/2011/02/26/data/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%E4%BA%94%E5%88%86%E5%86%8A.pdf)

以上をまとめると次のとおり。

  • 国内の治験や参考試験では承認用量での間質性肺炎に関する副作用例がなかった。
  • 海外の副作用報告からは、イレッサによる間質性肺炎等の発症頻度を的確に把渥することは困難だった。
  • 比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐であった(下痢の致命的となるおそれは小さい)。

ちなみに、製薬会社によれば、 報告には、イレッサのみの対象群がなく、実験系の信頼性が十分ではないと判断した 使用用量が臨床使用と比較してかなり高用量だった。(約50倍 イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)についての報道に関するアストラゼネカの見解 ということである。 以上の通り、承認当時、漠然とした間質性肺炎の発生可能性は分かっていても、その発生頻度は明確でなかった。 よって、「当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準」において、発症頻度が分かっている肝機能障害や下痢を頻度不明の間質性肺炎より先に記載したことには一定の根拠がある。 中毒性表皮壊死融解症については、こちらも頻度不明であるので、どちらを先に書くべきかは微妙だったと言える。 しかし、双方ともに頻度不明であり、かつ、双方ともに致命的な副作用であるなら、どちらを先に書いてもおかしくはない。

「中毒性表皮壊死融解症・多型紅斑」については,治験で確認された副作用ではなく,「拡大治験プログラムで1例ずつ報告されたことに」によって記載されたものである。
原告側準備書類-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/data/saijun1.pdf)

これが事実であるならば、海外で10例程度とされる間質性肺炎の方を前に記載すべきだろう。 以上をまとめると、記載順は次のようにすべきだったと言える。

  1. 肝機能障害(<-3)
  2. 下痢(<-1)
  3. 間質性肺炎(<-4)
  4. 中毒性表皮壊死融解症(<-2)

尚、肝機能障害が3番目に書かれていたことは問題があるだろう。 肝機能障害は最も致死的な頻度が高いのだから、当然、1番目に書くべきであったと言える。 中毒性表皮壊死融解症についても2番目に書く必要はない。 しかし、それは、本件裁判の争点ではない。 本件裁判争点に限れば、間質性肺炎の危険性については少なくとも3番目に書いていれば十分だったと言える。 3番目と4番目の予測頻度の差は小さいから、4番目に記載しても「当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準」から逸脱していたとまでは言えない。

また,使用上の注意通達によれば,「警告」欄の記載は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合,又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること。」とされているから,副作用が発現することが明らかになっている場合に限らず,致死的な副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があると考えられる場合で,かつ特に注意喚起をする必要がある場合であれば足りるところ,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎は,致死的な副作用が発現する可能性が否定できない場合であり,死亡という極めて重大な事故につながる可能性がある場合であるということができるから,警告欄に記載することについては,使用上の注意通達上支障のないものであったというべきである。(V-114〜115)
大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/2011/02/26/data/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%E4%BA%94%E5%88%86%E5%86%8A.pdf)

「が明らかになっている場合に限らず」前後の記述からは、「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合」が「副作用が発現することが明らかになっている場合」を意味すると解釈したと読み取れる。 「副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合」には「かつ」という言葉が含まれていないが、文面の趣旨からAND条件であることは明らかだろう。 判決文でもわざわざ「かつ」をつけて言い直しているのだから、大阪地裁もAND条件であると認識しているのである。 しかし、判決文では、この事例が「特に注意を喚起する必要がある場合」に該当するかどうかについては一切触れていない。 そして、わざわざAND条件として併記しているのだから、「重大な事故につながる可能性」と「特に注意を喚起する必要がある場合」が同一でないことは明らかであるである。 よって、「特に注意を喚起する必要がある場合」に該当するためには、「重大な事故につながる可能性」とは別の条件が必要となる。 また、「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合」との記述の整合性を考慮すれば、漠然とした可能性レベルの副作用の記述を求めたとは考え難い。 何故ならば、意味もなく無駄に複雑な文章を書く理由が説明できないからである。 常識で考えて、漠然とした可能性も含めることを意図したのならば、「副作用が発現する場合」ではなく「副作用が発現する可能性がある場合」と書けば済み、「又は副作用が発現する結果」以下の記述は必要ない。 よって、「又は副作用が発現する結果」以下の記述が、「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用」について可能性の程度を下げる意図であると解釈することはできない。 すなわち、ただ「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用」が発生する可能性だけをもって「特に注意を喚起する必要がある場合」と解釈することはできない。 では、何が「特に注意を喚起する必要がある場合」なのかと言えば、判決文の中で検証された事実において該当することは、一定以上の発生頻度等ではないか。 判決が認定した事実によれば、当時、イレッサが原因となる間質性肺炎の発生頻度は不明であるから、発生頻度としては他の重大な副作用と比べて「特に注意を喚起する必要がある場合」に該当しないだろう。 つまり、「死亡という極めて重大な事故につながる可能性がある場合」であっても、それだけでは、「使用上の注意通達」にて警告欄への記載を義務づけられているとまでは言えない。

さらに言えば、「使用上の注意通達」の解釈を決めるのは厚生労働省である。 厚生労働省が出した通達の解釈については、厚生労働省が黒と言えば、どんなに白くても黒なのである。 よって、厚生労働省が、重大な副作用欄に書くように指導し、警告欄への記載を指導しなかったのであれば、「使用上の注意通達」では警告欄への記載を求められていないと考えることができる。 もちろん、副作用の報告前であれば、その事実を知らない厚生労働省は「使用上の注意通達」に沿った指導が出来ないから、報告前の指導内容を「使用上の注意通達」の解釈の根拠には出来ない。 しかし、副作用の報告後であるならば、厚生労働省が「使用上の注意通達」に沿った指導をしたと考えられるので、「使用上の注意通達」は厚生労働省の指導にないことまでの記載を求めていないと解釈できる。 よって、製薬会社は、「使用上の注意通達」の解釈について、厚生労働省による解釈に従ったのであるから、「使用上の注意通達」に違反したとまでは言えない。

さて、ここでの表記が「警告欄に記載することについては,使用上の注意通達上支障のないものであった」であり、「警告欄に記載することが義務づけられていた」ではないことに注意してもらいたい

そして,承認時までの副作用報告において,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎を発症し,致死的な転帰をたどる例が報告されていたとの事実及ぴ同事実から認識すべき危険性を上記医療現場の医師等に対して正確に伝えるためには,少なくとも第1版添付文書の重大な副作用欄の最初に,間質性肺炎を記載すべきであったというべきである。 また,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎が致死的な転帰をたどる可能性があった以上,その点について警告欄に記載して注意喚起を図るべきであったというべきであるから,そのような注意喚起が図られないまま販売されたイレッサは,抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたものといわざるを得ず,平成14年7月当時のイレッサには指示・警告上の欠陥があったと認めるのが相当である。(V-115)
大阪地裁判決第五分冊-薬害イレッサ弁護団(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?iressabengodan.com/2011/02/26/data/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E7%AC%AC%E4%BA%94%E5%88%86%E5%86%8A.pdf)

まとめると、大阪地裁は、以下に反していることを理由に「指示・警告上の欠陥があった」としている。

  • 重大な副作用欄の最初に,間質性肺炎を記載すべき
  • 警告欄に記載して注意喚起を図るべき

しかし、先に述べたとおり、この判決文が認定した事実では、いずれも根拠が示されていない

  • 重篤さの程度においても、発生頻度においても、「重大な副作用欄の最初に,間質性肺炎を記載すべき」とする根拠がない。
  • 「致死的な転帰をたどる可能性があった」だけでは、「使用上の注意通達」の「警告欄に記載して注意喚起を図るべき」理由が全て満足されていない。
  • いつの間にか「使用上の注意通達上支障のないものであった」が何の説明もなく「警告欄に記載して注意喚起を図るべきであった」にすり替わっている。

以上の通り、大阪地裁は、「開発危険の抗弁」においても致命的な誤審を犯している。 しかも、根拠の乏しい論理の飛躍で間違った結論を導いているのである。

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