イレッサ訴訟トンデモ判決の原因分析

ほとんど次の頁の焼き直しである。

イレッサ東京訴訟地裁判決と高裁判決の比較も参考に。

製造物責任法と安全規制 

東京・大阪両地裁とも、製造物責任法の「通常有すべき安全性」と医療用医薬品の使用上の注意記載要領について(平成9年4月25日 薬発第607号)(以下、「使用上の注意通達」)の規制に従うことを混同している。 尚、両地裁が「使用上の注意通達」の解釈を捻じ曲げている件は後述する。

製造物責任法 第二条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。

2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

つまり、製造物責任法で言う「欠陥」とは、「通常予見される使用形態」の「通常有すべき安全性」を欠いていることである。

○清川政府委員 国の安全基準、そしてまたPL法の問題と二つ関係してくるわけでございますけれども、委員御指摘の国の安全基準、この安全規制そのものにつきましては、これは製品の製造あるいは販売に際しまして、事故を未然に防止する、そのために充足すべき最低の基準を定める取り締まり規定ということでございます。 不適合の場合、事故が発生しなくとも、製造・販売の禁止、罰則等の対象となるというような、こういう取り締まり規定であります。

しかしながら、これは企業の製品安全対策や消費者の購入、使用にかかわる評価のガイドラインとしての意味を持っているということになります。 また、この安全規制は、最低の基準を定めたという意味で、基準のレベルといいますか、これは一般に受け入れられる基準をつくっているわけでございます。

他方、製造物責任法、この法案につきましては、製品事故が発生した場合の被害の救済の責任原則を定めるというものでございます。 したがいまして、この製品安全規制と代替する関係ではなくて、相互に補完するものでございます。

このようなものでございますので、直接的に国の安全規制と国の賠償責任、国家賠償というものはリンクをしないで考えるべきものと考えます。


○清川政府委員 国の安全基準は、先ほど申し上げましたように、最小限の基準を定めた取り締まり規定でございます。 それと製品事故にかかわる事故の発生、これとまた別の問題であろうと考えます。

なお、安全規制の不備あるいは事故の原因である欠陥の発生の間に因果関係があるとか、あるいはそのことにつきまして、国家賠償法第一条にあります、公権力の行使に当たる公務員の故意あるいは過失が認められるというような場合に国が賠償責任を負うことになると考えます。

第129回国会 商工委員会 第5号


○清川政府委員 製品の選択は、基本的には消費者自身が行うわけでございますけれども、最近の製品の高度化、複雑化によりまして、消費者自身が製品の安全性を確認することが非常に困難になってきております。 このような背景から、今回、製造物責任制度が導入された後におきましても、国民の生命財産を保護する観点から、適切な情報の提供とともに、製品の安全性にかかわる規制は極めて重要なものと考えるわけでございます。

他方、尾身委員御指摘のように、規制緩和の大きな流れがございます。 臨時行政調査会、臨時行政改革推進審議会の答申などにおきまして、経済的規制を中心に規制緩和が提言されてきております。 安全規制などの社会的規制につきましても、国民の生命財産の安全の確保などを目的としておりますので、経済的規制と同列に論じることはできないわけではございますが、常に見直しを行い、実態に適合したものにする必要があろうと考えます。

このような観点から、安全規制につきましては、製品の特性、流通、使用、事故などの実態に即しまして、対象品目、基準、規制の内容について見直しを行い、めり張りのきいた体系としていくことが重要であると考えております。


○清川政府委員 行政上の安全規制基準と製造物責任法との関係は、これは意義・目的が異なるものでございますので、行政上の安全規制への適合、不適合と、本法案におきます欠陥の存在、言いかえれば製造物責任の存否の判断は必ずしも一致するものではございませんで、安全規制に適した製品の事故につきまして、製造業者等に対しまして本法案にかかわる損害賠償責任が認められることはあり得るわけでございます。

しかしながら、この安全規制への適合、不適合は、規制対象製品の事故にかかわる損害賠償責任の際の欠陥判断における重要な考慮事項の一つとなっていると考えております。 安全規制にかかわる技術的基準を合理的に定めることによって、消費者、企業双方にとって、欠陥判断の予測可能性あるいは安定性を高めることに資することになると考えるわけでございます。

なお、安全規制に適合している製品につきましてその欠陥による事故が発生した場合に、仮に安全規制の不備と事故の原因である欠陥の発生の間に因果関係があって、この安全規制の不備につきまして国家賠償法第一条の要件である公権力の行使に当たる公務員の故意または過失が認められるときは、国は、製造業者などの製造物責任の有無にかかわらず、国家賠償法に基づく国家賠償責任を負うことになるものと考えられますが、これはまた総合的に法廷において判断されることとなると考えます。

第129回国会 商工委員会 第7号

立法趣旨として「この安全規制への適合、不適合は、規制対象製品の事故にかかわる損害賠償責任の際の欠陥判断における重要な考慮事項の一つ」としつつも、「行政上の安全規制基準と製造物責任法との関係は、これは意義・目的が異なる」ので「行政上の安全規制への適合、不適合と、本法案におきます欠陥の存在、言いかえれば製造物責任の存否の判断は必ずしも一致するものではございません」としている。 つまり、国の安全規制と「通常有すべき安全性」は必ずしも一致するわけではない。 国会答弁では国の安全規制の方が緩い事例を挙げているが、必ずしも一致しないなら、逆に国の安全規制の方が厳しいこともあろう。 真に安全性を重視するなら、当然、安全マージンを大きく取るだろうが、次のいずれが「通常有すべき安全性」なのか、

  • 被害発生を防げるギリギリの安全性
  • 安全マージンを取った後の余裕を見た安全性

製造物責任法 第一条  この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

製造物責任法が「欠陥」により生じた被害の損害賠償の責任を定めた法律であるならば、「通常有すべき安全性」とは被害発生を防げるギリギリの安全性のことであろう。 常識的に考えて、「通常有すべき安全性」が安全マージンを取った後の余裕を見た安全性であると解釈することは困難である。 であるならば、国の安全規制が緩過ぎても、厳し過ぎても、いずれにしても、それは「通常有すべき安全性」とは必ずしも一致しないと考えられる。 もちろん、国の安全規制の安全マージンがほとんど無いことを立証できれば、安全規制違反をもって「通常有すべき安全性」を欠いているとは言えるだろう。 しかし、そんな面倒なことをするくらいなら実際の製品の危険性を立証した方が早い。 念のため探してみたが、国の安全規制に違反すれば、則、製造物責任法上の欠陥となるとする判例は見当たらなかった。

そもそも、使用上の注意通達は、医薬品による副作用被害を防ぐことを目的として出されたものであって、医師の責任軽減のために製薬会社に医師の責任の一部を転嫁することを目的として出されたものではない。 製薬会社の責任を重くした分だけ医師の責任を軽くしたのでは、結果として、副作用被害は減らないことになり、それでは本末転倒である。 よって、通達に記載されていない医師の責任軽減の意図があると解釈することは困難である。 最高裁判例で 医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。  平成4(オ)251 損害賠償請求事件 平成8年01月23日 最高裁判所第三小法廷  必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務があるというべきである。 平成12(受)1556 損害賠償請求事件 平成14年11月08日 最高裁判所第二小法廷 と判示されているように、医師には添付文書等に従う義務があるのだから、医師がその義務を果たすことが「通常予見される使用形態」の大前提となる。 「使用上の注意通達」は、この医師の義務を免除するものではないのだから、当然、「通常予見される使用形態」を拡張するものではない。 医師の重大な義務に違反した使用例が「通常予見される使用形態」に含まれるはずがなく、「通常予見される使用形態」から外れた違法な使用例にまで対応した安全性が「通常有すべき安全性」であるはずがない。 よって、医師の責任範囲が変わらないのであれば、「通常有すべき安全性」が拡張されるとは言えない。

確かに、「使用上の注意通達」は、医薬品の安全性は【その通達以前における「通常有すべき安全性」】を備えているだけでは不十分だと読める。 そして、その意味として、次の2通りの可能性があるとまでは言えるだろう。

  • 医薬品は「通常予見される使用形態」以外の使用形態も想定する必要があり、「通常有すべき安全性」以上の安全性がなければならない
  • 違法な使われ方をしても可能な限り害が生じないようにすることまでも、医薬品の「通常有すべき安全性」に含める

しかし、医師の責任範囲が変更されていない以上、後者の解釈(「通常有すべき安全性」を拡張した)を採用する余地はない。 よって、前者の解釈(医薬品に「通常有すべき安全性」以上の安全性を求めた)しかあり得ない。 この通達の何処にも、医薬品の「通常有すべき安全性」を拡張したことを意味する文言はない。 つまり、「使用上の注意通達」は、何らかの事情で医師がその義務に反することがあることを前提として添付文書を書くことを求めたものであって、医師が合理的理由なくその義務に反する場合を「通常予見される使用形態」に含めるとしたものではない。

もちろん、「使用上の注意通達」は守るべきものであるし、違反した者にはペナルティが必要だろう。 しかし、それは製造物責任法とは別問題である。 立法趣旨で説明されているように、安全規制と「通常有すべき安全性」は必ずしも一致するわけではないのだから、安全規制を「通常有すべき安全性」の根拠にするのは間違っている。 また、繰り返すが、両地裁が「使用上の注意通達」の解釈を捻じ曲げている件は後述する。

「通常予見される使用形態」「通常有すべき安全性」 

製造物責任法上,当該製造物が通常有すべき安全性を欠くか否かについては,「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期,その他当該製造物にかかる事情を考慮して」判断するとされている(同法2条2項)。 これを医薬品についてみると,医薬品は,その物理的・化学的な性質等による一定の作用を身体や病原体に及ぼすことで,疾病や症状の改善を図ることを目的とする物質であって,その性質上,治療上の効能,効果とともに何らかの副作用の生ずることは避け難いものであり, 医薬品としての有用性は,承認された用法,用量その他使用及び取扱い上の注意が遵守される限りにおいて認められるものである。 すなわち,当該医薬品の安全性は,添付文書等による使用方法や危険性等についての適切な情報が適切に提供されることと密接不可分な関係にあり,いわば,医薬品を販売する場合には,その使用方法や危険性等について適切な情報を医薬品と併せて販売することが予定されているものである。

したがって,医薬品が,添付文書等により使用方法や危険性等の情報が適切に提供されないまま販売された場合,すなわち指示,警告が不十分又は不適切なまま販売された場合には,医薬品として通常有すべき安全性を欠き,製造物責任法上の欠陥(指示・警告上の欠陥)があるものと解するのが相当である。

イ 指示・警告の対象

(ア)前記第5の4(3)の認定事実のとおり,イレッサは,医療用医薬品として,医師等によって使用され又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品であり, また,要指示医薬品として,薬事法49条1項により,医師等から処方せんの交付又は指示を受けた者以外の者に対しては販売,授受等が禁止される医薬品であるから,イレッサを投与するか要否・可否,投与時期,投与期間等の医学的判断は,医学に関する専門知識を有する医師等が行うことが予定されている。

また,添付文書通達(丙D13〔第1の1〕)によれば,医療用医薬品の添付文書は,薬事法52条1号の規定に基づき医薬品の提供を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師等に対して必要な情報を提供する目的で作成されるものであるから,その名宛人は医師等が予定されているものである(前記第5の1(1))。

したがって,医療用医薬品についての製造物責任法上の指示・警告上の欠陥の判断においては,製造(輸入販売)業者等は,当該医薬品の販売時点において,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報を,医療現場で当該医薬品を使用することが想定される平均的な医師等が理解できる程度に提供する必要があり,かつそれで足りるものと解するのが相当である。


(ウ)判断において考慮すべき事情

製造物責任法上,当該製造物が通常有すべき安全性を欠くか否かの判断において考慮要素として挙げられている「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期」は例示であって,その判断は,「その他当該製造物にかかる事情を考慮して」される(同法2条2項)。

前記4(1)イの認定・判断のとおり,医療用医薬品における指示・警告上の欠陥の有無の判断においては,当該医薬品の販売時点において,当該医薬品を安全かつ適正に使用するために必要な情報を,医療現場において当該医薬品を使用することが想定される平均的な医師等が理解することができる程度に提供(指示・警告)されたか否かが問題になる。 したがって,イレッサについて指示・警告上の欠陥があったかの判断は,イレッサの販売時における,イレッサの副作用とされる急性肺障害・間質性肺炎等に関する医学的,薬学的知見,医療現場の医師等に対して提供されていた情報の内容,医療現場の医師等の認識等を総合考慮して行うものと解するのが相当である。


そうすると,平成14年7月の第1版添付文書においては,上記のようなイレッサによる間質性肺炎に関する情報について,当時の医療現場の医師等のイレッサに対する認識を前提に,イレッサを安全かつ適正に使用するために必要な情報を,医療現場においてイレッサを使用することが想定される平均的な医師等, すなわち必ずしも肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師等が理解することができる程度に提供(指示・警告)される必要があったものというべきである。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.731,732,736,742

大阪地裁判決では、「通常予見される使用形態」を平均的な医師(=医学に関する専門知識を有する医師=必ずしも肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師)による使用と認定している。

(2)添付文書は,上記(1)のとおり,法の規定に基づいて,医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものであリ,その投与を受ける患者の安全を確保するために,これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載されるものであって,医薬品を治療に使用する医師等が必ず確認し,そこに記載された使用上の注意事項に従わなければな らないものであるから,その時点における医学的,薬学的知見に基づいて,医薬品の副作用等その安全性を確保するために必要な使用上の注意事項は基本的に添付文書に記載されていなければならないものというべきである。 なお,医療用医薬品のように医師等が使用することが予定されているものについては,これを使用することが予定された医師等の知識,経験等を前提として,当該医師等が添付文書に記載された使用上の注意事項の内容を理解できる程度に記載されていれば足りるものと解される 。


そして,添付文書は,上記第2章第2節第3款第1の2(1)のとおり,法の規定に基づいて,医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものであり,その投与を受ける患者の安全を確保するために,これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載されるものであって,医薬品を治療に使用する医師等が必ず確認し, そこに記載された使用上の注意事項に従わなければならないものであるから,医薬品の副作用等その安全性を確保するために必要な使用上の注意事項は基本的に 添付文書に記載されていなければならないものというべきであり,これを欠く場合には他の方法により安全管理が十分に図られたなどの特段の事情のない限り, 指示 ・警告上の欠陥があると認めるのが相当である。 なお,医療用医薬品のように医師等が使用することが予定されているものについては,これを使用することが予定された医師等の知識,経験等を前提として,当該医師等が添付文書に記載された使用上の注意事項の内容を理解できる程度に記載されていれば足りるものと解される。

東京判決第3分冊 - 薬害イレッサ弁護団III-141,142,168

東京地裁判決では、「これを使用することが予定された医師」の定義はない。

また,「重大な副作用」には,重篤度分類通知(後記(エ)・丙D16)におけるグレード3(重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。)に相当する副作用が想定されていた。 (甲F10〔99~100頁〕,12〔93,99頁〕,乙P5〔88頁〕,丙P5〔71頁〕,15〔23頁〕) (エ)副作用の重篤度分類に関する指針(重篤度分類通知(丙D16))

重篤度分類通知(丙D16)は,薬事法令所定の副作用報告のより一層の適正化,迅速化を図るため,報告を行う症例の範囲についての判断の具体的な目安として作成されたものである。

a 重篤度分類通知では,副作用の重篤度を概ね次のとおり1~3の3つのグレードに分類するとされている。

「グレード1」は,「軽微な副作用と考えられるもの」

「グレード2」は,「重篤な副作用ではないが,軽微な副作用でもないもの」

「グレード3」は,「重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。」

b 重篤度分類通知の別添の「副作用の重篤度分類」のうち,呼吸器系障害の重篤度の一覧表には,間質性肺炎は,グレード3として分類されている。

イ自主基準(乙D50)

(ア)使用上の注意通達発出以前に発出されていた,製薬企業の自主的団体である日本製薬工業協会(製薬協)による自主基準(「医療用医薬品添付文書「使用上の注意」記載内容の改訂について」平成6年11月21日付け製薬協発第1445号・乙D50)においては,「警告」欄と「重大な副作用」欄の記載要領につき,次のとおり定められていた。

a 「警告」は,「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合又は副作用が発現する結果極めて重篤な事故につながる可能性があって,特に注意を喚起する必要がある場合に記載する。」,「記載事項は赤枠で囲み,警告の文字は枠内に入れる。ただし,特に重要な場合は,赤字,赤枠とする。」

b 「重大な副作用」は,「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する。」

(イ)「重大な副作用」の「重篤度分類グレード3」は,重篤度分類通知(丙D16)におけるグレード3(重篤な副作用と考えられるもの。すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの)が想定されていた。(乙P5〔88頁〕,丙P5〔71頁〕)

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.648-650


また,「重大な副作用」欄の記載については,日本製薬工業協会の自主基準において,「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する」こととされており,医薬品情報学の教科書等においても,そのような理解がされていたところ, 「重篤度分類グレード3」は,厚生省薬務局安全課長通知により,「重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」とされ,間質性肺炎はグレード3に当たるものとされていた。

東京判決第3分冊 - 薬害イレッサ弁護団III-144

両地裁判決とも「重大な副作用」欄は「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」と認定している。 「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」から致死的な可能性を読み取れない医師は、「医療現場においてイレッサを使用することが想定される平均的な医師」「これを使用することが予定された医師」なのか。 それが「医学に関する専門知識を有する医師」なのか。 なんと、東京地裁判決にはもっと驚くべき文言がある。

「重大な副作用」欄には致死性のあるもののみが記載されることとはされていないことなども併せ考えると,これらの記載ぶりによっては,イレッサを使用する医師等が,イレッサの副作用である間質性肺炎が致死的となり得る重篤なものとして発症する可能性があるという危険性を読み取ることは必ずしも容易ではなかったものと認められる。

東京判決第3分冊 - 薬害イレッサ弁護団III-150

「致死性のあるもののみが記載されることとはされていない」における「致死性のあるもの」ではないものとは「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」のことか。 「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」だったら、「致死性のあるもの」よりも軽視して良いのか。 そんな、馬鹿なわけがない。 実質的には、重篤かつ「永続的」な機能不全も致死的な副作用と大差ない。 いや、患者の立場に立てば、むしろ、重篤かつ「永続的」な機能不全の方が重視すべき副作用かもしれない。 よって、当然、「日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」も致死的な副作用と同程度に十分な警戒をすべきであるはずである。 そんなことも分からない馬鹿な医師が「医療現場においてイレッサを使用することが想定される平均的な医師」「これを使用することが予定された医師」であるはずがない。

重篤度分類基準医薬品全般の基準であって抗がん剤だけの基準ではない。 よって、当然、「必ずしも肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師」も知っているべき知識であるはずであろう。 それなのに、どうして、「平均的な医師」が致死的な可能性を読み取れないと言えるのか。

重篤度分類基準を出すまでもない。 添付文書には「重大」な副作用と書いてあるのだ。 「軽微」な副作用ではない。 だったら、素人判断でも、軽視すべきではない情報だと分かる。 素人よりも判断力の劣る医師が「平均的な医師」「予定された医師」であるはずがない。 その他、両地裁の判決理由を見ると、全く理解不能な前提に立っている。

  • 製薬会社の宣伝を鵜呑みにする。
  • 致死的または重篤かつ永続的な機能不全の恐れのある副作用を4つ並べると、4番目は重要ではないと解釈する。
  • 何ら合理的な理由なく、その時点で最も重視すべき情報(当時は医薬品の添付文書)を軽視する。
  • 必要性があっても文献参照などの可能な限りの最新情報を収集しようとはしない。
  • 十分な知識もないのに未経験の医療行為に対して無警戒に挑戦する。
  • 医療用医薬品であっても経口薬は副作用を気にせずに投与して良いと考える。

両地裁は、この「平均的な医師」「予定された医師」像を根拠にして、「通常有すべき安全性」を欠いていると判断した。 しかし、これを「平均的な医師」「予定された医師」と認定した根拠は判決文の何処にも書かれていない。 一方で、一般常識的な感覚における「平均的な医師」「予定された医師」像は次のとおりであろう。

  • 製薬会社の宣伝は話半分に聞く。
  • 何番目であろうとも、致死的または重篤かつ永続的な機能不全の恐れのある副作用である限り、重要であると解釈する。
  • 合理的な理由がない限り、その時点で最も重視すべき情報(当時は医薬品の添付文書)には可能な限り従う。
  • 必要に応じて文献参照などの可能な限りの最新情報を収集しようとする。
  • 未経験の医療行為に挑戦するときは、経験不足や知識不足を補うための最大限の努力をする。
  • 経口薬であっても医療用医薬品であれば、副作用については警戒が必要と考える。

両地裁の言う「平均的な医師」「予定された医師」は、判決を読めば読むほど理解に苦しむ。

安全規制の解釈 

「使用上の注意通達」には次のように書かれている。

医療用医薬品の使用上の注意記載要領について(平成9年4月25日 薬発第607号) 第三 記載要領

  1. [警告]
    1. 致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合、又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって、特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること。
    2. 必要な場合には設定理由を[ ]内に簡潔に記載すること。
  2. [禁忌(次の患者には投与しないこと)]
    1. 患者の症状、原疾患、合併症、既往歴、家族歴、体質、併用薬剤等からみて投与すべきでない患者を記載すること。なお、投与してはならない理由が異なる場合は、項を分けて記載すること。
    2. 本項以外にも、禁忌に該当する内容のある場合は、重複して本項にも記載すること。
    3. 原則として過敏症以外は設定理由を[ ]内に簡潔に記載すること。
    4. 本来、投与禁忌とすべきものであるが、診断あるいは治療上当該医薬品を特に必要とする場合には、[禁忌]とは別に「原則禁忌(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること)」として記載すること。なお、「原則禁忌」の記載はむやみに行うべきではなく、「診断あるいは治療上特に必要とする場合」に限定すべきであること。
    5. 使用に際しての特別の注意、応急対処法があれば簡潔に記載すること。
  3. [慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)]
    1. 患者の症状、原疾患、合併症、既往歴、家族歴、体質、併用薬剤等からみて、他の患者よりも以下(I)~(VII)に述べるような副作用による危険性が高いため、投与の可否の判断、用法及び用量の決定等に特に注意が必要である場合、又は、臨床検査の実施や患者に対する細かい観察が必要とされる場合に記載すること。他の患者と比較して危険性が高い場合として、次のものが考えられる。
      1. 副作用が早く発現する場合
      2. 副作用の発現率が高い場合
      3. より重篤な副作用が現れる場合
      4. 非可逆性の副作用が現れる場合
      5. 蓄積する結果、副作用が現れる場合
      6. 耐性が変化する場合
      7. その他医療用医薬品の使用上の注意記載要領について(平成9年4月25日 薬発第607号)
    2. 原則として過敏症以外は設定理由を[ ]内に簡潔に記載すること。

「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合、又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性」については言うまでもない。 では、「特に注意を喚起する必要がある場合」とは何か。 大阪地裁判決には説明がない。 一方、東京地裁判決では、イレッサが使用する医師が「イレッサの副作用には重篤なものはないと考えられる可能性があった」と明確に定義している

そして,前記のとおり,イレッサの副作用には重篤なものはないと考えられる可能性があったのであるから,被告国の認識を医師等に明確に伝えるため,「特に注意を喚起する必要」があったものと認められる。

東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(III-152,153)

前項で述べた通り、東京地裁は、素人よりも判断力の劣る医師を「これを使用することが予定された医師」と認定している。 素人以下を基準にすれば、どんな場合であっても、間違った理解をされる可能性は排除できるはずがない。 よって、東京地裁の認定では、あらゆる場合において「特に注意を喚起する必要がある場合」に該当する。 そうすると、通達文で「特に注意を喚起する必要がある場合」という記載をした理由が成り立たない。 つまり、通達の文面と、東京地裁の解釈は整合性しない。 そんなあり得ない解釈で記載要領違反を認定するなど無茶苦茶にも程がある。

「欠陥」と損害の因果関係 

逐条解説では、製造物責任法の「欠陥」と損害の因果関係は原告側に立証責任があるとしている。

(12)「証明責任はどうなるのか」

この問題は立法段階から最も深刻な議論をよんだ争点の一つである。 EC指令第四条は、被害者の立証責任を定めた独立の条項を有しているが本法は有していない。 「本法は、権利の発生を主張する者が具体的な権利発生事実を主張・証明する民事訴訟の原則に立って策定されたものである。」 従って、本法においては被害者、原告側が(a)欠陥の存在、(b)損害の存在、(c)欠陥と損害の因果関係の存在について証明しなければならない。 このような証明責任を被害者側におくことは、推定規定の排除を意味し、被害の負担が大きいものになるという不利益は避けられない。 この点については「本法案では、立証責任については、原告が責任原因を立証するこれまでの原則が維持されているが、政府としては、裁判において個々の事案の内容、証拠の提出状況等に応じて、経験則、事実上の推定等を柔軟に活用することにより、事案に即し、公正に被害者の立証責任の軽減が図られることを期待する」という説明がなされている。

製造物責任法の逐条解説 - 北川俊光P.1170

大阪地裁も、この逐条解説と同様の解釈である。

製造物責任法は,被害者保護の観点から,被害者は,製造物に存在した欠陥によって損害を受けたことを立証すれば,製造業者に対して損害賠償請求をすることができ,製造業者が免責されるためには, 製造業者において同法4条所定の免責事由を立証する必要があるとして,民法の不法行為に基づく損害賠償請求における立証責任を上記の限度で転換したものであるが,製造物責任法は,これを超えて更に被害者の立証責任を転換したものと解することはできない。

したがって,事実上の事実推定において,製造物責任法の立法経緯や同法の趣旨が踏まえられるぺきであるが,製造物に欠陥が存在すること及び製造物の欠陥により損害が発生したことについての主張立証責任は,原告らが負うものと解する。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.719

東京地裁は、製造物責任法の立証責任について述べていない。

両地裁とも、「欠陥」と損害の因果関係の立証なしに製造物責任を認めている。 大阪地裁は「欠陥」と損害の因果関係があるかどうかも述べていない。 東京地裁は因果関係があると断定しているが、そう判断した根拠は示していない。 少なくとも、原告が公開した判決文の中には因果関係の立証部分はない。 原告が公開しなかった部分に記載されている可能性は否定できないが、判決文の構成から見てその可能性は低いだろう。

大阪地裁判決には大きく2つの判断遺脱がある。

  • 指示・警告がなされていた仮定においてイレッサよりも他の治療法を優先する(イレッサを優先しない)根拠がない
  • 重大な副作用欄を無視する医師が警告欄であれば重視したとする根拠がない

東京地裁判決では原告が公開した範囲には判断が示されていない。 東京地裁判決で因果関係の根拠になりそうな部分は以下のような記載だけである。

これらの統計によれば,イレッサによる間質性肺炎の副作用の発現は,本件緊急安全性情報の発出前の3か月間に投与を開始されたものにつき344例(うち死亡例162例)であったのに対し, 本件緊急安全性情報の発出後の2か月余りに投与を開始されたものにつき102例(うち死亡例38例)であったというのであり,本件緊急安全性情報の発出後は,間質性肺炎の発現例も死亡例も,それ以前に比べてかなり減少したことが認められる。


本件添付文書第1版の記載では,イレッサを使用する医師等には,イレッサによる薬剤性間質性肺炎が従来の殺細胞性の抗がん剤と同程度の頻度と重篤度で発症し,致死的となる可能性のあることまで認識することは困難であったものというべきである。

このことは,本件緊急安全性情報が発出された後は,急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少していることによっても裏付けられており,現実には,イレッサを使用した医師等のうち多くの者が,本件添付文書第1版によっては,審査センターが判断したような間質性肺炎の危険性を読み取ってはいなかったものと考えられる (医師等の1〜2人が読み誤ったというのであればともかく,多くの医師等が読み誤ったと考えられるときには,医師等に対する情報提供の方法が不十分であったと見るべきである。)。

東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(III-146,152)

これらは最高裁判例に照らして、因果関係の根拠とならない。

訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。

昭和48(オ)517 損害賠償請求

因果関係とは何かと言えば次のとおりである。

欠陥と損害発生との事実的な因果関係の存在→欠陥が無ければ損害が発生しなかったこと

講演資料|イレッサ訴訟判決が示唆するもの ソリブジン事件の教訓はなぜ活かされなかったのか-J&T治験塾

「緊急安全性情報が発出された後は,急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少している」ことは、次のいずれが主原因か明らかではない。

  • 「警告」欄への記載
  • 緊急安全性情報の発出
  • マスコミ報道(緊急安全性情報が切っ掛けと推認できる)

先の述べた通り、「重大な副作用」欄の記載だけで致死的となる可能性のあることは容易に認識できたはずである。 容易に認識可能であっても軽視されたのだから、「警告」欄に記載すれば重視されると考えるのは、非現実的な夢物語だろう。 どう考えても、添付文書の記載内容を変更したくらいでは「急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少」するとは考え難い。 常識で考えて、「急性肺障害,間質性肺炎の発症が減少」した原因としてはマスコミ報道の影響が一番可能性が高い。 よって、「欠陥」と損害の因果関係には「通常人が疑を差し挟ま」む余地が十分にあり、「高度の蓋然性」が証明されたとまでは言えない。 もちろん、「警告」欄への記載が主原因の可能性はあるが、「通常人が疑を差し挟ま」む余地が十分にある以上、「高度の蓋然性」が証明されたとまでは言えない。

「多くの医師等が読み誤った」に至っては荒唐無稽な多数論証としか言いようがない。 「多くの」とは何人なのか。 何%が読み誤ったのか。 そして、何%以上なら「情報提供の方法が不十分」なのか。 その判断を示すのが、裁判所の仕事だろう。 それをせずに「多くの医師等が読み誤った」などと詭弁を並べるのは裁判所の仕事ではない。

国家賠償法 

国家賠償法に基づく損害賠償の法的根拠は次のとおり。

国家賠償法 第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

○2  前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

両地裁とも、立証責任は原告にあるとした。

しかし,原告らは,厚生労働大臣がイレッサを承認した行為が国家賠償法上違法であるとして,同法1条1項に基づく損害賠償責任を主張するものであり,同項所定の損害賠償請求権の発生原因事実については原告らが主張立証責任を負うと解されるから, 原告らにおいて,公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたことを主張立証する責任を負うというべきである。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.773


原告らは,申請に係る医薬品に有用性が存在することの主張立証責任は,国賠法上も被告国に存するものと主張するが,独自の見解であって,採用することができない。

東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(III-4)

国家賠償法には製造物責任のような立証責任を軽減する根拠はない。 よって、原告側が、先の最高裁判例に従って因果関係を立証しなければならない。 しかし、判決文では因果関係が立証されていないのだから、国の損害賠償責任は認定しようがない。 少なくとも、大阪地裁は、その点だけは理解していた。 東京地裁は、そんなことも分かってなかった。

後知恵に基づく後方視的な批判 

両地裁とも、承認当時には漠然とした危険性しか分かっていなかったことを認定している。

イ 安全性(危険性)

前記第5章第3のとおり,平成14年7月当時におけるイレッサの安全性(危険性)に関する判断の要点は以下のとおりである(第5章第3の5参照)。

(ア)イレッサの作用機序や毒性試験から,間質性肺炎の発生が予測できたとはいえない。

(イ)国内3症例をはじめ治験や参考試験においては,イレッサの承認用量での間質性肺炎に関する副作用例がなく,イレッサを承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症するという明確な根拠はなかったが,同時に,間質性肺炎が発症する可能性も否定できなかった。

また,海外の副作用報告によると,間質性肺炎等に関する海外の副作用報告のうち承認用量での間質性肺炎発症例が半数ほどあり,投与量不明なものも少なからず存在した。

したがって,承認用量で投与したときに間質性肺炎が発症する可能性があると判断すべき根拠はあった。

(ウ)海外の副作用報告からは,イレッサによる間質性肺炎等の発症頻度を的確に把握することは困難であり,国内臨床試験における発症頻度約2.3%は,従来の抗がんと比較して,特に高いとはいえなかった。

(エ)一般的に,薬剤性間質性肺炎,特に抗がん剤による薬剤性肺炎においては,多くは投与の中止又はステロイド薬により改善するが,時には死に至ることがありえ,国内3症例は,がんの進行によりイレッサによる間質性肺炎と死亡との間の因果関係が否定されるものやイレッサによる間質性肺炎が軽快したものなどであったから, 国内3症例からは,イレッサにより発症しうる間質性肺炎が,従来の抗がん剤に比べて,致死的ないし重篤なものであったとまで判断することはできなかった。

また,海外の副作用報告からは,承認用量のイレッサによって発症しうる間質性肺炎の重篤性ないし致死性を適正に評価することは困難であったといわざるをえず,より慎重に評価を加えたとしても,イレッサによる間質性肺炎によって死に至ることがあるが,イレッサによる間質性肺炎の重篤度は,従来の殺細胞性抗がん剤と同程度とみるのが相当であった。

国内外の副作用報告を総合すると,イレッサによって発症しうる間質性肺炎は,死に至ることがありうるが,従来の抗がん剤と比べて致死的ないし重篤なものであったとはいえないと評価することが相当であった。

(オ)国内外の副作用報告のいずれにおいても,イレッサの投与開始からの間質性肺炎の発症時期や症状経過,ステロイド療法への反応性などは様々であったといえるから,イレッサの副作用による間質性肺炎が急性間質性肺炎の特徴を有するものであるなどの特徴を把握することまでは困難であった。

(カ)イレッサの副作用のうち,最も多くみられるものは発疹(皮疹,湿疹)であり,比較的発症頻度が高いものは肝機能障害,下痢,嘔吐などであり,発疹の副作用グレードは高いとはいえず,従来の殺細胞性抗がん剤と比較して,嘔気(悪心)や嘔吐は,発症頻度が低く,症状の程度も軽度であり,下痢も,致命的となるおそれは小さく,発症頻度も低かった。

イレッサには,従来の殺細胞性抗がん剤では高頻度で発症し,死に至る危険のある血液毒性による副作用はほとんどみられなかった。

平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.636


症例によってはときに致死的となるということがうかがわれたにとどまり,早期(急性)に発症したものの予後が悪いという傾向はうかがわれなかったものと認められる。


しかしながら,そもそもイレッサによる間質性肺炎の副作用症例であることが不明確な症例も含めていることに加え,症例数が少ないこと及びEAPの副作用報告の信用性が相対的に低いことも考慮すると,エビデンスとしては,安全性情報としても非常に弱いものであったといわざるを得ず,このようなエビデンスからは,イレッサによる間質性肺炎について,早期(急性)に発症したものの予後が悪いことを予見することができたと認めることはできない。


これらのデータから,発症後死亡する症例では比較的早期に死亡する傾向をうかがわせるエビデンスが全くなかったとはいえない。 しかしながら,症例数が少ないことに加え,EAPの副作用報告の信用性が相対的に低いこと及び EAP症例の患者は一般的に予後が悪いものと考えられることも考慮すると,エビデンスとしては,安全性情報としても非常に弱いものであったといわざるを得ず,このようなエビデンスからは,イレッサによる間質性肺炎について,発症後死亡する症例では比較的早期に死亡することを予見することができたと認めることはできない。


(1)国内臨床試験 3例 うち 死亡0例

これらは,いずれも500mg/日投与例であった。

(2)国外臨床試験 5例 うち 死亡4例

(INTACT 3例 うち 死亡2例)

このうち,乙B13の2,丙B3の63,丙B3の190は500mg/日投与例,その余は投与量不明例であった。

(3)EAP 15例 うち 死亡9例(我が国の症例2例うち死亡1例)

東京判決第3分冊-薬害イレッサ弁護団(III-128,129,131,132)

このような事実認定を元に、どうして両地裁のような判決が下せるのだろうか。 漠然とした可能性を確定事項と同列に扱えと言うのは無茶である。 それなら、他の3つの重大な副作用も警告欄に入れるべきか。 新薬には未知の副作用の可能性もあるが、それも警告欄に入れるべきか。 このように可能性を言い出したらキリがない。 それでも可能性を確定事項と同列に扱えと言うなら可能性の程度を線引して論じるべきだろう。 それなのに、両地裁とも、可能性の程度の評価もせず、基準も示していない。 間質性肺炎だけが特別だとする根拠を何も示してないのだ。 被害発生の結果論で間質性肺炎を特別扱いしろと言うなら、未来の知見を添付文書に反映しろと言うに等しい。 両地裁はタイムマシンを使えとでも言うのか。

両地裁判決に比べれば、 「重大な副作用」欄に「間質性肺炎」の記載をするに際し,「観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと」との説明を加えながら,致死的事態が生じ得る旨を記載しなかった本件添付文書第1版(前記6(2)コ(31頁))について,それが合理性を欠くものと認めることはできないものというべきであり,したがって,その記載に指示・警告上の欠陥があったものということはできない。 薬害イレッサ東日本訴訟 東京高裁判決 - 薬害イレッサ弁護団P.44〜52 が如何に妥当な判断であるか良く分かる。

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