イレッサ指示・警告上の欠陥を常識で考える
原告の主張
添付文書の間質性肺炎の記載について「目立たない所に書いてある」等の原告の主張の発端は、添付文書に対する素人判断であろう。 医薬品に限らない消費者問題の一般論として、「取扱説明書なんてイチイチ読まねーよ」「目立つ様に書いてなきゃ誰も読まねーよ」という言い分が通ることを応用しようとしたのだろう。 原告は、添付文書を患者が読む前提で主張しているのである。 しかし、いずれの判決においても、添付文書は医師が読む(専門家介在理論)として原告の主張を退けている。
さらに、原告は、その主張を一見補強するかの様に見える
内容からみて重要と考えられる事項については記載順序として前の方に配列すること
致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合、又は副作用が発現する結果極めて重大な事故につながる可能性があって、特に注意を喚起する必要がある場合に記載すること
医療用医薬品の使用上の注意記載要領について(平成9年4月25日薬発第607号)
を利用しようとしたが、それは大阪高裁判決に一蹴されている。
専門家介在理論を具体例で説明
例として、A社の製品Bについて考える。 そして、この製品BにはC社の製品Dが組み込まれていたとする。 その製品Dの分厚い取扱説明書の「重大な○○」欄に「上部通気口を塞がないでください。発熱により重大な障害が発生する可能性があります。」と書いてあったとする。 さて、A社の製品開発担当が製品Dの上部通気口を塞いだ状態で製品Bを出荷してしまい、それが原因で事故が起きた場合、責任は何処にあるのか。 この場合、言うまでもなく、責任はC社ではなくA社にある。
もちろん、一般消費者が、直接、製品Dを購入して上部通気口を塞いだ場合には、「取扱説明書なんてイチイチ読まねーよ」「目立つ様に書いてなきゃ誰も読まねーよ」と言って、C社の責任を問うことも不可能ではあるまい。 しかし、A社は、職業として製造・販売しているその道の専門家なのだから、一般消費者と同じ言い訳が通用するはずがない。 A社は、消費者に対して安全な製品を提供する責任があるのだから、使用した部品についても万全の安全対策を講じなければならない。 製品Dの取扱説明書を隅から隅まで熟読して当然であり、その中でも、特に重要そうな部分は真っ先に、かつ、何度も読むべきである。 よって、当然、「重大な○○」欄に記載されているなら、その記載には十分な注意が必要である。 「重大な○○」欄に反した行為を行なって事故が起きたなら、合理的な理由がなければ、当然、A社の責任である。 たとえば、C社に問い合わせて「念のために書いてあるだけで、気にする必要は全然ないですよ」と回答を得たなら、それは合理的理由になろう。 しかし、そうした合理的理由なく「重大な○○」欄に反したなら、それは、当然、A社の責任である。
もちろん、「重大な○○」の重大性が理解できなかったという言い訳も通じない。 重大と書いてあるのだから何か重大なことを伝えようとしていることは誰にでも分かる。 にもかかわらず、その重大性を確認せずに無視して良いのか。 一般消費者が自分が買った製品を使う時なら、自己責任で「分からないから無視」という選択もあるのだろう。 しかし、職業として製造・販売しているその道の専門家である以上、無知によるリスクを消費者に先送りする行為は許されない。 職業専門家である以上、「重大な○○」欄に記載された情報ならば、分からないことは調べてから判断すべきであり、何の根拠もなく想像で無意味と決めつけて切り捨てるのはおかしい。
C社の立場に立って考えてみよう。 一般消費者に販売する商品であれば、取扱説明書を読まない可能性を想定しなければならない。 その場合は、上部通気口の近くの見易い場所に警告が必要だろう。 しかし、職業として製造・販売しているその道の専門家が取扱説明書を読まないことまで想定しなければならないのだろうか。 ましてや、「重大な○○」欄の何がどう重大なのか確認もせずに無視することまで想定しなければならないのだろうか。 常識で考えて、職業専門家が「重大な○○」欄の何がどう重大なのか確認もせずに無視することまで想定しなければならないのであれば、注意すべきことに切りがなくなる。
以上のとおり、専門家介在理論においては、「取扱説明書なんてイチイチ読まねーよ」「目立つ様に書いてなきゃ誰も読まねーよ」では「重大な○○」欄に記載された事項を無視する理由とならない。
イレッサの場合
イレッサの場合は、「重大な副作用」欄に間質性肺炎の記載があった。 さて、この記載を無視してイレッサが投与されて事故が起きた場合、責任は何処にあるのか。 この場合、言うまでもなく、責任は製薬会社ではなく医師にある。
医師は医業を職業として行なう専門家である以上、「添付文書なんてイチイチ読まねーよ」「目立つ様に書いてなきゃ誰も読まねーよ」は通らない。
さらに、最高裁判例で
医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。
平成4(オ)251 損害賠償請求事件 平成8年01月23日 最高裁判所第三小法廷
と判示されているように、当然、医師は添付文書を熟読しなければならない。
原告は、
「重大な副作用」は「重篤度分類基準」(丙D16)におけるグレード3(重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障を来す程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの。)を記載すると定めており
薬害イレッサ西日本訴訟大阪高裁判決(全文) - 薬害イレッサ弁護団P.170
を全ての医者が知っているとは限らないと主張する。
しかし、重篤度分類基準を知らなくても、重大と書いてあるのだから何か重大なことを伝えようとしていることは誰にでも分かる。
何がどう重大なのか分からないなら、患者に使う前に、まず、何がどう重大なのか確認すべきである。
職業として医業を行なう専門家である以上、無知によるリスクを患者に先送りする行為は許されない。
職業専門家である以上、「重大な副作用」欄に記載された情報ならば、分からないことは調べてから判断すべきであり、何の根拠もなく想像で無意味と決めつけて切り捨てるのはおかしい。
製薬会社の立場に立って考えてみよう。 処方箋なしで販売する一般的医薬品であれば、患者が添付文書を読まない可能性を想定しなければならない。 しかし、職業として医業を行なう専門家が添付文書を読まないことまで想定しなければならないのだろうか。 ましてや、「重大な副作用」の何がどう重大なのか確認もせずに無視することまで想定しなければならないのだろうか。 常識で考えて、職業専門家が「重大な副作用」の何がどう重大なのか確認もせずに無視することまで想定しなければならないのであれば、注意すべきことに切りがなくなる。
以上のとおり、専門家介在理論においては、「取扱説明書なんてイチイチ読まねーよ」「目立つ様に書いてなきゃ誰も読まねーよ」では「重大な副作用」欄に記載された事項を無視する理由とならない。
「下痢や皮膚障害より後だから」(素人の勘違い)
原告らは、下痢や皮膚障害より後に書いてあれば大した副作用でないと誤解されるのは当然だと主張する。 しかし、それは、下痢や皮膚障害が致死的な副作用であることを知らないが故の素人考えである。 例えば、抗がん剤の副作用の下痢による死亡例も少なくはない。
イリノテカンなどは十数年前死亡例が多発し、朝日新聞で「悪魔の薬」とまで罵倒された。
これは特有の副作用である重篤な遅発性下痢から敗血症を発症して亡くなるケースが多かったのだが、こういう経験を通して、適切な対処方法が開発された。 そして今や大腸癌を始め、世界的になくてはならない抗がん剤になっている。
薬剤性の下痢ではない一般的な下痢であっても、症状が酷い場合は致死的となる。
発展途上国では主な死因の一つとなっている。
特に大腸での水分吸収が行われない為に生じる脱水症状は危険である。
脱水が高度になると循環血流量が減少するため、多臓器不全(腎不全など)やショック、意識障害を招くこともある。
大阪地裁判決で
下痢,中毒性表皮壊死融解症,肝機能障害は,それぞれEAPの副作用報告で死亡例が1例ずつ確認されている
平成16(ワ)7990イレッサ薬害訴訟事件平成23年02月25日大阪地方裁判所第12民事部P.744
と認定されているとおり、間質性肺炎以外の3つの重大な副作用はいずれも致死的な可能性のある副作用であった。
さらに、大阪高裁判決で、
間質性肺炎の発症と死亡との間の因果関係が否定できない死亡事例は11例であるが,イレッサと死亡との間の因果関係が比較的明確なのは1例
さらに,因果関係が比較的明確な1例は,EAPの症例であって,その報告内容の信用性には一定の限界があり,
発症頻度をいえば,INTACT各試験のイレッサ投与例は1404例,EAPが1万例を超える
薬害イレッサ西日本訴訟大阪高裁判決(全文) - 薬害イレッサ弁護団P.165,166
と認定されているので、承認段階の知見における間質性肺炎と他の3つの重大な副作用の致死性の程度は、いずれもドングリの背比べであって、どれが最も危険であるかは定かではなかった。
以上のとおり、下痢や皮膚障害より後に書かれたことを問題視するのは素人故に勘違いに過ぎない。 むしろ、可能性の程度が定かでない4つの副作用を隠すことなく重大な副作用欄に掲載したことを評価すべきである。
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関係団体等
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- “薬害”イレッサ訴訟で国と製薬会社の控訴は当然
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