イレッサ原告また厚労相協議申入なる奇策
不実なる奇策
肺がん治療薬「イレッサ」の副作用を巡る訴訟で大阪地裁が25日の判決で添付文書への行政指導が十分でなかったと指摘したことを受け、原告・弁護団は28日、細川律夫厚生労働相に原告と協議することを求める申し入れ書を提出した。原告らは「国の賠償責任は否定されたが、かろうじて違法判断を免れたにすぎない」と指摘、全面解決に向け協議を求めている。
厚労相との協議、原告が申し入れ イレッサ訴訟-日本経済新聞(http://iressa.sakura.ne.jp/jump.cgi?www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819695E0EAE2E2868DE0EAE2E0E0E2E3E39191E2E2E2E2)
実際には、イレッサ訴訟大阪地裁判決の解説(原告敗訴)のとおり、原告の主張は悉く退けられている。 大阪地裁は、判決の元になる事実を次のように認定している。
- 承認時も現在も、イレッサの有効性は肯定できる。
- 承認時も現在も、イレッサが通常有すべき安全性を欠いたとは認められない。
- 被告側が情報を独占していようとも、イレッサの有用性の有無の立証責任は原告側にある。
- 腫瘍縮小効果(抗腫瘍効果)を代替評価項目として有効性を評価することは妥当。
- 重篤な副作用の発症をもって,直ちに製造物の欠陥を推認することは認められない。
- 間質性肺炎より前に書かれた副作用がいずれも致死性のものであった。
- 承認当時の国内のデータでは、承認用量での間質性肺炎の発生は0件だった。
- 承認当時、データ上の発生頻度では肝機能障害や下痢が多く、間質性肺炎の頻度は予測不可能だった。
- 製造物責任法上の指示・警告として製薬会社が直接患者に対して情報を提供することは予定されていない。
- 第1版添付文書が作成された当時、第9版添付文書が前提としている医学的・薬学的知見が存在したとはいえない
このように原告側の主張がほとんど退けられたからこそ、国の責任が否定されたのである。 それでも、製薬会社の責任が認められたのは、2つの初歩的な誤審にある。
- 2つの最高裁判例を無視して、医師の義務を果たさない者を「平均的な医師」として認めたこと
- 地裁自身が認定した事実と矛盾する「知見」を何の根拠もなく認定したこと
つまり、真相は、製薬会社の製造物責任がかろうじて認められたにすぎない。 これらは原告弁護団が公開している判決文にて判明する事実であり、当然、原告も知っていることである。 薬害イレッサ訴訟和解勧告の真相で指摘したとおり、やはり、原告は敗訴を察知したからこそ、裁判所に和解勧告を求めたのである。
そして、今回の大阪地裁判決で、原告は、敗訴の確信をより強くしたのだろう。 原告の主張を悉く退けた事実認定で、製薬会社の責任が認められたのは、原告にとっても予想外の原告にとっては嬉しい誤算にすぎない。 東京地裁も同じ証拠で闘っているなら、事実認定でそう大きな違いが出るとは考え難い。 そして、東京地裁が、大阪地裁と同様に、都合良く、初歩的な2つの誤審をしてくれる保証はない。 この2つの誤審のうちの1つでも無くなれば、製薬会社の責任を問うことはできなくなる。 そして、大阪地裁と同様の事実認定では、国の責任を問うことは不可能である。
原告は大阪地裁と東京地裁と2連敗を確信したのである。 そこで、2連敗の前に片を付けようとして、協議を申し入れたのだろう。 しかし、国としては勝つことが分かっている裁判なのだから、そのような協議を受け入れるとは考え難い。 よって、今回の原告の奇策も、前回同様、空振りに終わるだろう。 とはいえ、原告側も、本気で相手が協議に応じるとは考えていないのだろう。 これは、前回同様に、相手側が不誠実であるかのように見せる演出でしかない。 国や製薬会社は和解を拒否しました、協議も拒否しました、と主張することで、自分たちに同情を集め、世論を操作することを目論んでいるのではないか。
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