イレッサ東京訴訟地裁判決と高裁判決の比較
恣意的な表
薬害イレッサ弁護団の作成した表があまりに酷い事実歪曲であるので、次の点を修正する。
- 実務と「欠陥」の関係の記述はまるでデタラメ。
- 地裁判決の重篤度分類基準(重大な副作用=「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」)に関する言及を排除している。
- 高裁判決では副作用の認定と添付文書の記載方法が別(どちらも安全対策実務)とは言っているが、安全対策実務と製造物責任法上の「欠陥」が別だとは一言も言ってない。
- 表の「副作用の認定」の高裁判決側の内容は「副作用の認定」に関するものではない(副作用の認定は両判決で大差ない)。
- 表の「危険性に関する承認当時の認識可能性」はどちらも正しく記載していない。
- 地裁判決の高裁判決に相当する部分「間質性肺炎の発症頻度や,早期に発症して予後が悪い等の発症傾向を予見させるものとはいえなかった」が省かれている。
- 高裁判決で認定した認識可能性を無視し、「被告らの認識・認識可能性について触れていない」と嘘を書いてある。
- 「記載要領との関係」についてフェアでない記述がある。
- 両地裁で記載要領を基準とすることの妥当性の判断が分かれているのだから、項目名に「記載要領」を入れるのは恣意的である。
- 高裁判決には、この項目に該当する判断が含まれているのだから、「記載要領に全く触れていない」と書くのはインチキである。
- 「第1版添付文書の情報提供としての効果」のうち高裁判決側のイレッサに則した部分(重篤度分類基準に基づいた記載内容の妥当性等)を無視して一般論にすり替えている。また、当時の医学的知見(医学書の記載内容)についての記載もない。
- 「被害実態との関係」についてフェアでない記述がある。
- 報道の影響の方が大きいと推測できるにもかかわらず、地裁判決が被害減少と添付文書改訂との因果関係を論じていないことに触れていない。
- 地裁判決が「多くの医師」と言いながら何%の医師が誤読したか等の具体的数値を出さない非科学的多数論証を用いていることに触れていない。
- 高裁判決側を「被害実態については触れていない」としているが、実際には被害実態との関係を最高裁判例から推測したものである。
- 争点のうち、イレッサの有用性や「通常予見される使用形態」や素人向けの記載の要否について触れないのはフェアではない。「本件患者らの治療に当たった担当医は,いずれも癌治療の態勢の整った総合病院における癌専門医であったと認められる」(P.42)に触れないのはフェアでない。
高裁判決を「薬剤性間質性肺炎一般についての議論しかしていない」と非難しながら、地裁判決が素人同然の無知な医師一般についての議論しかしていない(高裁判決では「本件患者らの治療に当たった担当医」について論じている)ことに触れないのもフェアではない。 イレッサ訴訟トンデモ判決の原因分析も参考に。
正確な表
イレッサ訴訟東京地裁判決とイレッサ訴訟東京高裁判決の主な違いを表にしてみた。
東京地裁判決 | 東京高裁判決 | |
---|---|---|
①イレッサの有用性 | イレッサの有用性を認める。 | (地裁判決と同じ) |
②通常予見される使用形態等 | 「これを使用することが予定された医師等」(III-142)の定義に全く触れていない。判決理由では、重大な副作用=「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」(III-144)として記載されても「致死的となり得る重篤なものとして発症する可能性があるという危険性を読み取ることは必ずしも容易ではなかった」(III-150)医師を想定。→素人同然の無知な医師による使用を想定 | 「イレッサのこの特質を考えると,本件添付文書第1版ないし第3版に基づいてイレッサを処方する医師は,癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であるものといえる」「本件患者らの治療に当たった担当医は,いずれも癌治療の態勢の整った総合病院における癌専門医であったと認められる」と認定(P.42)。→イレッサの使用実態に沿った認定 |
③実務と「欠陥」の関係 | 重大な副作用=「死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」(III-144)として記載されるにもかかわらず「副作用には重篤なものはないと考えられる可能性があった」(III-152)として「特に注意を喚起する必要がある場合」に該当すると認定(III-153)。→素人同然の無知な医師への配慮を重視 | 安全対策実務として、副作用症例の認定と添付文書の記載は別。添付文書の欠陥の有無は、医薬品投与との間に「因果関係がある」といえるか、あるいは「因果関係がある可能性ないし疑いがある」にとどまっていたのかによって判断する必要があるとしている(P.25)。→安全対策実務の実態を重視 |
④副作用の認定 | イレッサとの「因果関係が否定できない」間質性肺炎症例23例を認定(うち死亡との因果関係が否定できない症例13例) | (地裁判決とほぼ同じ) |
⑤危険性に関する承認当時の認識可能性 | 「『イレッサにより,承認用量で,間質性肺炎が従来の抗がん剤と同程度の頻度や重篤度で発症し,致死的となる可能性がある』と認められるものではあったが,間質性肺炎の発症頻度や,早期に発症して予後が悪い等の発症傾向を予見させるものとはいえなかった」(III- 137,138)と認定。 | 「原審がした『副作用症例』であるとの認定は,有害事象とイレッサ投与との間の『因果関係を否定することはできない』との判断,すなわち,『因果関係がある可能性ないし疑いがある』との判断を示したものにとどまり,『因果関係がある』まで認定したものではない」(P.25,26)と認定。→判断内容は地裁判断と同等 |
⑥記載方法との関係 | 上記⑤の危険性に関する認識を上記③の解釈にあてはめ、「『警告』欄に記載するのが相当であった」(III-153)と認定。→素人同然の無知な医師への狼少年的警告を重視 | 医薬品投与との間に「因果関係がある」といえるか、あるいは「因果関係がある可能性ないし疑いがある」にとどまっていたのかによって記載方法を判断すべきと認定(P.25)。→予見性の程度と警告レベルのバランスを重視 |
⑦第1版添付文書の情報効果 | 「本件添付文書第1版によっては,イレッサは,致死的な副作用がほとんどないものと理解される可能性があった」(III-149)「致死的なものであることは,添付文書に記載がない限り,一般の医師等には容易に認識できなかった」(III-151)と認定。→素人同然の無知な医師の判断や目に訴える表示方法に着目 | 一般的な副作用であり致死的となることが医学書等に解説されている。死亡又は重篤な機能不全に陥るおそれのあるものを記載する『重大な副作用』欄には間質性肺炎を含む4つの副作用を掲げていたが、いずれもが死亡又は重篤な機能不全に陥るおそれがあるから「何の副作用もない医薬品であるという認識を持ったと認めるのは困難」と認定(P.33〜37)。→医学書・添付文書の記載内容、重篤度分類基準等に着目 |
⑧素人向けの記載 | 「医療用医薬品のように医師等が使用することが予定されているものについては,これを使用することが予定された医師等の知識,経験等を前提として,当該医師等が添付文書に記載された使用上の注意事項の内容を理解できる程度に記載されていれば足りるものと解される」と認定(III-142)。 | (地裁判決と同じ) |
⑨被害実態との関係 | 上記⑦の判断のみを根拠として、緊急安全性情報やマスコミ報道の影響を考慮せずに添付文書の記載事項の変更のみが副作用被害減少の原因であると想定。「医師等の1〜2人が読み誤ったというのであればともかく,多くの医師等が読み誤ったと考えられるときには,医師等に対する情報提供の方法が不十分であったと見るべき」と認定(III-152)→考えられ得る可能性を無視した決めつけ&多数論証トリック | 「これらの医師が,仮に本件添付文書第1版の記載からその趣旨を読み取ることができなかったとすれば,その者は添付文書の記載を重視していなかったものというほかない」(P.47)→最高裁判例に沿った推定 |
評価 | 添付文書作成の実務から掛け離れた判断。漠然とした危険性を大げさに警告すれば被害が防げるという楽観的な夢物語。現実を見ず、狼少年の寓話に学んでいない。被害の責任は国や製薬会社に転嫁。それで薬害が防げるのか? | 因果関係の程度等に応じて記載事項を決定する、という実務の流れに即した判断。添付文書の記載内容が薬害の原因であったのかどうかを客観的証拠の積み重ねにより推定した、現実的な判断。 |
その他
- 承認当時の国と企業が、薬事法で求められている義務を尽くしたのかどうかが問われている訴訟で、薬事法や通知とは異なる基準を採用した判断であり誤りである。
- 過去の多くの薬害訴訟の判決が認めてきた製薬企業の高度の安全性確保義務さえも真っ向から否定するものである。
- 医薬品安全対策と企業・国の責任に関する基本的な理解を欠いた前代未聞の立論である。
原告が「薬事法や通知とは異なる基準を採用した」と主張しているだけで、判決文の何処にもそのような記載はない。 判決文では副作用の認定と添付文書の記載方法が別(どちらも安全対策実務)とは言っているが、安全対策実務と製造物責任法上の「欠陥」が別だとは一言も言ってない。 企業・国の責任に関する基本的な理解を欠いた前代未聞の難癖だろう。
- 専門医による処方の限定が添付文書に加わったのは第4版であるのに、承認当初から専門医が処方していたと誤った認定をしている。
- 通院で使用でき、承認前から副作用の少ない「夢の新薬」という宣伝のために、多くの専門医ではない医師がイレッサを処方していた現実と乖離する。
- 半年で180人もの間質性肺炎が発生した事実を説明できない。
東京高裁判決は「承認当初から専門医が処方していた」とも言ってないし、「多くの専門医ではない医師がイレッサを処方していた」ことも否定していない。 本訴訟は製造物責任法で争っているのだから、その法律の「通常予見される使用形態」について述べただけだと思われる。 原告は、製造物責任法で争っているという大前提まで忘れてしまったのか。 「その者は添付文書の記載を重視していなかったものというほかない」を採用すれば「半年で180人もの間質性肺炎が発生した事実」はいくらでも説明できる。
- 9月6日の第1回期日後、第2回期日の指定に際し、10月中に4つの候補日を示し、双方代理人がこの日程で合わなければ、裁判所が職権で指定するとさえ述べて、10月に第2回期日を入れることに拘った。
- また原告が求めたプレゼンテーションの実施を不要であるとして許さず、強引に10月25日の第2回期日で結審し、異例のスピードで判決を下した。
- 挙げ句、原告の主張整理においても、原告が主張していないことを原告の主張とする点が散見されるなど、審理不尽の、ずさんで、独断的な判決を下した。
裁判日程がある程度当事者の思い通りにならないのは止むを得ない部分があるだろう。 これは程度問題であって、沖縄から出向いているとかでもなければ「4つの候補日を示し」がそんなに酷いとは思えない。 あと、裁判員裁判ならともかく、裁判官裁判に「プレゼンテーション」が必要な理由が分からない。 問うべきことは追加の主張があったのかどうかである。 追加の主張のないプレゼンテーションならば、裁判は法的妥当性で争うものでありアジテーションの場ではない…と裁判所が判断するのも当然だろう。 「原告が主張していないことを原告の主張とする点が散見」については後述。
あまりにも杜撰。 事実誤認が多すぎる。 主張もしていないこと、言ってもいないことを言ったといって言いがかりをつけているに過ぎない。 こうならない為に主張はきちんと書面にしてあるはずなのに。 何処にもそんな主張がないことは証拠を見れば一目瞭然なのに。
間違い一覧の絵をテキストに直すのも面倒なので引用はしていない。 あまりに瑣細な重箱の隅を突きすぎていて引用する価値を見出せない。 いずれも、大筋の判決には影響を与えないような細部の問題である。 あれだけ長い判決文であれば、それくらいの間違いはあろう。 原告側が鬼の首を取ったように主張していたことがこの程度だとしたらガッカリである。
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- イレッサ判決で原告が逆転敗訴・日本の「予防原則」が死んだ日?
訴訟
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- イレッサ指示・警告上の欠陥を常識で考える
- 予防原則に沿ったイレッサ高裁判決
- イレッサ大阪高裁判決速報
- イレッサ東京訴訟上告理由不備
- イレッサ訴訟トンデモ判決の原因分析
- イレッサ東京訴訟地裁判決と高裁判決の比較
- イレッサ東京高裁判決速報
- J&T治験塾への反論
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- イレッサ薬害を沈静化した国の迅速な緊急安全性情報
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- “薬害”イレッサ訴訟で国と製薬会社の控訴は当然
- 国と製薬会社はイレッサ訴訟の求償権を行使して医師を訴えよ!