薬害イレッサ訴訟東京高裁判決についての原告団・弁護団声明についての声明

声明文 

2011年11月15日、薬害イレッサ弁護団は、東京高等裁判所の判決に対して、国と企業に責任転嫁する極めて不当な声明を発表した。

本声明は、添付文書における副作用の記載の欠陥について当該医薬品と承認前に集積された副作用報告症例の因果関係の確実性に基づいて判断すべきとする判決文の趣旨を捩じ曲げ、「確定的に『因果関係がある』と言える状態に至らなければ、安全対策をとる義務が発生しないとするに等しい極めて特異な考え方」を捏造している。

これは、国や企業や裁判所でさえ主張していない、医薬品安全対策に関する基本的な理解を欠いた前代未聞の立論であり、誤りという他はない。 国や企業や裁判所も、企業と国が予防原則に基づいて、安全対策をとることの必要性を示しており、東京高裁判決もこのような考え方に立って判決を下し、添付文書の記載に欠陥がないと認定したのである。 本声明は、この判決文の趣旨を根底から否定するものであり、本声明を前提とすれば、およそ言い掛かり訴訟を防止することなどできない。

また、本声明は、製造物責任法第2条第2項の「通常予見される使用形態」として専門医を想定した判決文の趣旨を「イレッサが当初より専門医のみが処方する薬剤であったとする誤った前提に立っている」とする誤った解釈に立っているのみならず、「専門医であれば、初版添付文書で十分に間質性肺炎の致死的危険性を理解しえた」ことを否定するものであり、医師の添付文書に従う義務や最新情報収集の義務を認定した最高裁判例を没却し、国と企業に責任を転嫁する点においても不当である。

我々は、将来の医薬品安全対策、薬事行政に禍根を残す本声明の不当性を強く訴え、薬害イレッサ事件の全面解決まで闘い抜く所存である。

引き続きご理解とご支援をお願いする。

弁護団の詭弁 

安全対策をとる義務 

本日、東京高等裁判所第10民事部は、東京地方裁判所の判決を覆し、国と企業の責任を否定する極めて不当な判決を言い渡した。

本判決は、承認前に集積された副作用報告症例について、当該医薬品との「因果関係がある可能性ないし疑いがある」というだけでは足りず、確定的に「因果関係がある」と言える状態に至らなければ、安全対策をとる義務が発生しないとするに等しい極めて特異な考え方を大前提に下されている。

薬害イレッサ訴訟東京高裁判決についての原告団・弁護団声明.pdf - 薬害イレッサ弁護団

「確定的に『因果関係がある』と言える状態に至らなければ、安全対策をとる義務が発生しない」とは判決文の何処に書いてあるのか。

ところで,弁論の全趣旨によれば,薬事行政上,生命・身体の保護の観点から,副作用症例と認定する際の有害事象と医薬品投与との因果関係の判定については,「因果関係を否定することができない」か否かが判断基準とされているものと認められる。 この扱いは,「疑わしい場合は副作用報告の対象とする」扱い(前記2(2)(8頁))と同様に,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」症例を幅広く「副作用症例」として扱い,医薬品の投与中又は投与後に有害事象が発現した症例をできる限り広く薬事行政に生かしていくための行政上の運用指針として合理性が認められる。

しかし,民事損害賠償法の中には,製造物責任法においても,不法行為法においても,因果関係について,上記のような判断基準は存しない。 医薬品の添付文書における副作用の記載に製造物責任法上の欠陥又は不法行為法上の違法性があったといえるかどうかについて判断する場合には,添付文書の作成時において,当該有害事象と医薬品投与との間に「因果関係がある」といえる事実関係があったのか,あるいは「因果関係がある可能性ないし疑いがある」にとどまっていたのかを具体的事実に基づいて認定した上で,これに基づいて,添付文書における副作用の記載に欠陥等があったといえるかどうか判断する必要がある。 原審がした「副作用症例」であるとの認定は,有害事象とイレッサ投与との聞の「因果関係を否定することはできない」との判断,すなわち,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」との判断を示したものにとどまり,「因果関係がある」とまで認定したものではない。

この観点から上記4死亡症例について見てみると,いずれの症例についても,肺癌患者の死亡原因特定の困難性(前記2(2)(7~9頁))を反映して,次に述べるとおり,死亡とイレッサ投与との間に,因果関係の認定を揺るがす症状又は現象が存在しており,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」との判断が示されたにとどまり,「因果関係がある」とまで認定することのできる症例は存在しない。

薬害イレッサ東日本訴訟 東京高裁判決 - 薬害イレッサ弁護団(p.25,26)

確かに、「因果関係がある」か「因果関係がある可能性ないし疑いがある」かによって、「添付文書における副作用の記載に欠陥等があったといえるかどうか判断する必要がある」とは書いてあるようだ。 しかし、これは「因果関係がある可能性ないし疑いがある」場合には重大な副作用欄への記載も必要ないとする趣旨とは到底読めない。 むしろ、「因果関係がある可能性ないし疑いがある」にとどまっているなら、安全対策としては重大な副作用欄への記載で充分であるという趣旨に読める。

しかし,間質性肺炎は従来の抗癌剤等による一般的な副作用であり,イレッサを処方するのは癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であり,当該医師は,薬剤性間質性肺炎により致死的事態が生じ得ることを認識していたものといえる。 仮にその医師に,『分子標的薬には従来の抗癌剤に生じる副作用が生じない』という医学雑誌記事等に基づく予備知識(前記6(3)エ(35頁))があったとしても,本件添付文書第1版は,イレッサの適応を「手術不能・再発非小細胞肺癌」に限定し,「重大な副作用」欄に間質性肺炎を含む4つの疾病又は症状を掲げていたのであり,添付文書を一読すれば,イレッサには4つの重大な副作用があり,適応も非小細胞肺癌一般ではなく,手術不能・再発非小細胞肺癌に限定されていることを読み取ることができ,それを読む者が癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であるならば,それが副作用を全く生じない医薬品とはいえないものであることを容易に理解し得たと考えられる。 これらの医師が,仮に本件添付文書第1版の記載からその趣旨を読み取ることができなかったとすれば,その者は添付文書の記載を重視していなかったものというほかない(前記6(3)エの甲L285号証に係る説示(36,37頁)参照)。

薬害イレッサ東日本訴訟 東京高裁判決 - 薬害イレッサ弁護団(p.47)

東京高裁判決は、添付文書第1版に「重大な副作用」欄に記載していたこと、適応を「手術不能・再発非小細胞肺癌」に限定していたこと等を挙げ、「添付文書の記載を重視していなかった」者でなければ致死的な可能性を示す趣旨を読み取ることができたとしている。 つまり、東京高裁判決は、添付文書第1版で安全対策は充分だと判断したのである。 よって、「確定的に『因果関係がある』と言える状態に至らなければ、安全対策をとる義務が発生しない」は原告による完全な捏造である。

専門医のみが処方? 

また、本判決はイレッサについて専門医限定が添付文書に加わったのは、第4版であるにもかかわらず、イレッサが当初より専門医のみが処方する薬剤であったとする誤った前提に立っているのみならず、専門医であれば、初版添付文書で十分に間質性肺炎の致死的危険性を理解しえたとするものであり、ソリブジン薬害事件の教訓を没却し、現場の医師に責任を転嫁する点においても不当である。

薬害イレッサ訴訟東京高裁判決についての原告団・弁護団声明.pdf - 薬害イレッサ弁護団

判決には「専門医のみ」とは書いていない。

(2)イレッサの処方を受ける者とイレッサを処方する医師

イレッサは要指示薬であり,劇薬であり,新医薬品であり,肺癌の中の「手術不能又は再発非小細胞肺癌」のみを効能・効果の対象疾患とし(前記(1)ア〜ウ),本件添付文書中に「本剤の化学療法未治療例及ぴ術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない」とされている医薬品であって(前記6(2)コ(31頁)),イレッサの処方を受ける者は,肺癌患者の中でも手術不能又は再発非小細胞肺癌に罹患した特に治療が困難な者であるといえる。 また,イレッサのこの特質を考えると,本件添付文書第1版ないし第3版に基づいてイレッサを処方する医師は,癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であるものといえる。

なお,前記3認定の事実(9〜15頁)及ぴ乙個①1,乙個②1,乙個③2の1によれば,本件患者らの治療に当たった担当医は,いずれも癌治療の態勢の整った総合病院における癌専門医であったと認められる。

(3)前記(1)及び(2)の特質に基づく本件添付文言の説明の対象者

前記(1)及び(2)認定のとおり,イレッサは,手術不能又は再発非小細胞肺癌に罹患した患者を対象とする要指示薬であり,劇薬であり,新医薬品であり,イレッサを投与する医師は癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であることからすると,本件添付文書第1版ないし第3版の説明の対象者は,癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であるものと認められる。


9 指示・警告上の欠陥の有無についての判断

(1)本件添付文書第1版に警告欄がないこと及ぴ間質性肺炎の副作用により致死的事態が生じ得るとの記載がないことが指示・警告上の欠陥といえるか

ア 前記6ないし8認定の事実によれば,次のとおり認められる。

①イレッサは要指示薬であり,手術不能又は再発非小細胞肺癌を対象疾患とするものであって,イレッサの投与の判断をする医師は癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であり,本件添付文書の説明の対象者も癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であると認められる(前記7(1)〜(3)(41〜43頁))。 ②そして,薬剤性間質性肺炎は従来の抗癌剤や抗リウマチ薬等の投与で生じる一般的な副作用であり,癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医は薬剤他間質性肺炎の副作用により死亡することがあり得ることを承知していたと考えられる(前記6(3)ウ・エ(34〜37頁))。 ③このような状況の中で,本件添付文書第1版には,適応を「手術不能又は再発非小組胞肺癌」に限定する記載がされ,「関連する使用上の注意」として「本剤の化学療法未治療例及ぴ術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない」との付記がきれ,「重大な副作用」として「4)関質性肺炎」と記載されている(前記6(2)コ(31頁))。

薬害イレッサ東日本訴訟 東京高裁判決 - 薬害イレッサ弁護団(p.42〜45)

指示・警告上の欠陥の有無についての判断であるから、「本件添付文書第1版ないし第3版の説明の対象者」は製造物責任法第2条第2項の「通常予見される使用形態」の説明であると思われる。 高裁判決では、「通常予見される使用形態」以外の使用形態において、「癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医」の使用がなかったとは断言していない。 また、「本件患者らの治療に当たった担当医」が全員癌専門医であったとも認定している。 よって、原告の批判は見当違いも甚だしい。

東京地裁が 「重大な副作用」欄の記載については,日本製薬工業協会の自主基準において,「重篤度分類グレード3を参考に副作用名を記載する」こととされており,医薬品情報学の教科書等においても,そのような理解がされていたところ,「重篤度分類グレード3」は,厚生省薬務局安全課長通知により,「重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態等によっては,死亡又は日常生活に支障をきたす程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの」とされ,間質性肺炎はグレード3に当たるものとされていた。 東京判決第3分冊 - 薬害イレッサ弁護団(III-144) と認めていることからも「専門医であれば、初版添付文書で十分に間質性肺炎の致死的危険性を理解しえた」ことは明らかである。

また、医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。 平成4(オ)251 損害賠償請求事件 平成8年01月23日 最高裁判所第三小法廷 必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務があるというべきである。 平成12(受)1556 損害賠償請求事件 平成14年11月08日 最高裁判所第二小法廷 とする最高裁判例によれば、医師の過失が主原因であることが明らかである。 医師の責任を国や製薬会社に転嫁することこそ不当であろう。

ついで 

裁判長が,何もわかっていないことが明らかです.

薬害イレッサ訴訟東京高裁判決についての「声明」 - 弁護士谷直樹/法律事務所のブログ

こういう主張はJ&T治験塾が次のようにバッサリ切っている。

弁護士の中には負けると「裁判所は分かっていない」と言う方がいます。 大体こういう弁護士は使わないほうがいい。 能力不足を自白しているようなものです。

資料⑥塾長医法研5月度月例会講演録 - J&T治験塾

「裁判長」と「裁判所」の違いは無視して差し支えない瑣細な違いであろう。 勝てなかった裁判において訴訟戦術の誤りを省みる事なく「裁判長が,何もわかっていない」とぼやくのは無能弁護士である。 原告側も参加した講演で事前に言われた通りの無能弁護士の指摘通りのことをするとは、お約束すぎる。

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